Q.股関節の機能障害(可動域制限)についての後遺障害(後遺症)認定はどうなりますか。
股関節は,寬骨と大腿骨からなっていて,骨盤側の寛骨臼が大腿骨を包み込むような構造をしています。
寬骨は,腸骨,坐骨,恥骨が結合して構成するものです。
骨盤あるいは大腿骨,さらに両方の損傷により股関節の機能障害である可動域制限が生じることがあります。
可動域制限は主要運動の測定によることが原則です。
股関節の主要運動は,屈曲・伸展あるいは外転・内転です。
その制限の程度によって,「1下肢の3大関節の1関節」の後遺障害として8級6号(用廃),10級10号(著しい障害),12級6号(単なる障害)と等級認定されます。
1 どのような外傷によって股関節の可動域制限が生じるのでしょうか。 (クリックすると回答)
(1)外傷性股関節脱臼
股関節脱臼とは,骨盤から大腿骨骨頭部(大腿骨の先端部分で骨盤にはめ込まれています。)が脱臼することです。
そして,大腿骨頭が寛骨臼底を破って骨盤内に突出する状況になり,寛骨臼底の骨折を伴った脱臼骨折となると重症です。
股関節脱臼でも大腿骨頭部の損傷を伴わなければ後遺障害となる残存症状は考えにくいとされています。
ただし,骨頭壊死を発症して人工骨頭置換術をすることになった場合には,確実に後遺障害の対象となります。
(2)(骨盤の)寛骨臼骨折
骨盤は,仙骨および左右の寛骨で構成されています。
寛骨は成長期は腸骨・坐骨・恥骨の3つに分かれていますが,成人となって骨成長が終了すると,1つの骨となります。
寛骨の中で関節を構成する部分が寛骨臼(カンコツキュウ)です。
骨折の機転としては,大腿骨頭がハンマーのように動いて寛骨臼に衝撃を与えることです。
その結果,寛骨臼の破壊となります。
その場合には,股関節固定術・人工関節置換術への適応となる可能性があります。
(3)大腿骨骨頸部骨折
大腿骨骨折の中でも,骨頚部は,股関節の可動域制限に関係します。
股関節は,骨盤を形成する寛骨にある寛骨臼に大腿骨骨頭が入っている状態にあります。その大腿骨骨頭のすぐ下の大腿骨のくびれた部分が大腿骨頸部です。
若年者の場合には,高エネルギー外傷でなければ生じませんが,高齢者では路上での転倒といった低エネルギー外傷でも生じて,転位を確実に生じ,人工骨頭置換術あるいは人工股関節術を行うことになります。
人工骨頭置換術あるいは人工股関節術を行った場合に後遺障害の対象となります。
2 後遺障害(後遺症)の各等級の内容を教えて下さい。 (クリックすると回答)
(1)8級6号(用廃)
a. 関節が強直したもの
関節強直とは,関節自体が癒着して可動性を喪失した状態です。まったく動かない完全強直とそれに近いものを言います。
つまり,関節が全く可動しないか,またはこれに近い状態を言います。
「これに近い状態」とは,健側の可動域の10%程度以下(5度単位で切り上げて計算します。)に制限されたものをいいます。
b. 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
他動では可動するが,自動では動かないもの,「これに近い状態」とは,他動では可動するが,自動では健側の可動域の10%程度以下(5度単位で切り上げて計算します。)に制限されたものをいいます。
c. 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
人工関節・人工骨頭を挿入置換した場合は,主要運動である屈曲・伸展か外転・内転のいずれか一方の可動域が健側の1/2以下に制限されていれば「関節の用を廃したもの」として認定することとされるとなっています。
(2)10級10号(著しい障害)認定
a. 関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
b. 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されていないもの
主要運動である屈曲・伸展か外転・内転のいずれか一方の可動域が健側の1/2以下に制限されていない場合です。
この場合には,全く可動域の制限がないものも含まれます。
(3)12級6号(単なる障害)認定
関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの
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3 股関節の主要運動の屈曲等とは何ですか。 (クリックすると回答)
股関節の機能障害である可動域制限は,主要運動を健側(負傷していない側)と患側(負傷した側)とを比較して,自動ではなく他動で比較をします。
主要運動は,屈曲・伸展,外転・内転です。
屈曲・伸展あるいは外転・内転の合計で比較します。
(1)屈曲
骨盤と脊柱を十分に固定した仰向けの状態で,片足の膝を屈曲位(折り曲げた格好)で顔面に近づける動作です。
(2)伸展
逆にうつぶせの状態で,膝を伸展位(まっすぐ伸ばした格好)で持ち上げる動作です。
(3)外転
骨盤を固定した仰向けの状態で,片足をまっすぐに伸ばした状態から外側に回転させる動作です。
(4)内転
同じ骨盤を固定した仰向けの状態で片足をまっすぐに伸ばした状態から内側に回転させる動作です。
(5)外旋・内旋
仰向けで片足の股関節と膝関節を90度屈曲位(足を膝のところで90度に曲げた格好)の状態から膝を床面に水平にして外側に回転させる動作が外旋,逆に内側に回転させる動作が内旋です。
参考運動ですので,その制限だけでは認定対象とはなりません。
しかし,股関節の可動域において主要運動である屈曲・伸展が+10度,外転・内転が+5度超える場合は,参考運動である外旋・内旋について可動域角度が1/2又は3/4以下に制限されていれば等級認定するとされています。
4 後遺障害10級10号となる可動域制限とは具体的にはどのようなものですか。 (クリックすると回答)
例えば,
患側:屈曲=60度,伸展=5度 健側:屈曲=125度,伸展=15度
この場合に同一平面の運動である屈曲と伸展の合計値で判断されます。
同様に外転と内転もその合計値です。
屈曲+伸展は,患側=65度 健側=140度 すると,65度<140度×1/2=70度
したがって,2分の1以下に制限されていることになります。
なお,別の原因で健側が既に可動域制限がある場合には参考可動域角度で判断されます。
股関節については,屈曲=125度,伸展=15度,外転=45度,内転=20度です。
5 後遺障害12級6号となる可動域制限とは具体的にはどのようなものですか。 (クリックすると回答)
例えば
患側:屈曲=70度,伸展=10度 健側:屈曲=125度,伸展=15度
屈曲+伸展は,患側80=度 健側=140度 すると,80度>140度×3/4=105度
したがって,4の3以下に制限されていることになります。
6 大腿骨の人工骨頭置換術とは,どのようなものですか。 (クリックすると回答)
(1)大腿骨の人工骨頭置換術
大腿骨頸部内側骨折,偽関節,大腿骨骨頭壊死の場合に多く用いられます。
破壊された骨頭に変えて,金属などの人工素材による骨頭に置換する手術です。
(2)外傷性大腿骨頭壊死症とは
外傷性大腿骨頭壊死症とは,大腿骨頭壊死の中でも最も多いとされています。
大腿骨頚部骨折後に生じるもので,骨折の際の血流が途絶えたことが原因となります。
その他にも,性股関節脱臼後にも生じることがあります。
なお,最近の技術の進歩から,可動域制限が健側に比べて2分の1以下になること,つまり8級となることは,ほぼあり得ないで,ほとんどが10級と考えるべきです。