Q.裁判所の判決で将来の介護費用を一括ではなく定期金の支払いを命じることはできますか。

[中間利息控除,介護費用,定期金,平均余命]

A.

被害者である原告が,望んでいないにもかかわらず定期金賠償判決が出されることがあり得ます。これに対して,変更判決(民事訴訟法117条)を求める訴え提起が考えられます。

1 定期金賠償とは何ですか。

損害賠償は,様々な損害項目(費目)を合計した金額を一括した一時金として支払うことが原則です。

これに対して,年金のように定期的に一定の支払時期を定めて定期金として支払うやり方もあります。


 定期金賠償が問題となる理由は何ですか。

①将来の予想できない問題に対応するためです。

(ア)例えば,平均余命まで生存することが可能であるかどうか不確かな面があるからです。

(イ)また,その点に関連して,将来の介護費用については,切断するとしています(最高裁第1小法廷平成11年12月20日判決 民集53・9・2038)。

すると,一時金として将来の介護費用を受領した場合において,被害者が平均余命まで生存するかどうかにより被害者側が必要以上な利得をしてしまうか,あるいは逆に損失を受けてしまうのではないかという考慮があります。

(ウ)さらには,介護費用の単価について,介護保険法施行とともに,それに併せて上昇をしてかなりの高額となってきました。

介護保険制度の定着によって,相場が形成されていますが,今後は金額が上昇する可能性もあり依然として不透明です。

②もう一つの側面は,被害者側,つまりは損害賠償請求権者からのものです。

一時金だと中間利息として年5%控除され手取額としては,いかにも少ないという気持ちが残ります。定期金払いにすれば,その中間利息控除が回避できるのです。

また,事件や被害を風化して欲しくないという,制裁的な気持ちからです。


3 判決において考えられる類型

原告(被害者側)が,一時金賠償を望み,その通りの判決については特段に問題はありません。

ところが,定期金賠償を命じる判決にも次の二通りがあります。

(ア)原告が,定期金賠償を望み,そのとおりの定期金賠償を命じる判決

(イ)原告が,一時金賠償を望んだにもかかわらず,定期金賠償を命じる判決


前者については,原告が,望んでいることを考えると問題は少ないといえます。あるとすれば,原告代理人との意思疎通が充分であったかということ,本人あるいは家族の理解をきちんと得ているかの問題は残ります。

問題は後者です。学説としては反対が多数ですが,次の東京高裁平成25年3月14日判決(確定)のように積極的に肯定する判決も少なからず出ております。

「控訴人花子や控訴人三郎が、金銭の授受を含む法的紛争を速やかに終了させて、控訴人一郎の介護に専念したいという強い意向を有し、定期金賠償方式による賠償を全く望んでいないという事情を考慮しても、本件において、定期金賠償方式を採用することが不相当であるとはいえず、むしろ、定期金賠償方式を採用するのが相当というべきである。

なお、一時金賠償方式による将来の介護費用の支払を求める請求に対し、判決において、定期金賠償方式による支払を命じることは、損害金の支払方法の違いがあることにとどまっていて、当事者の求めた請求の範囲内と解されるから、処分権主義に反しない。」


4 定期金賠償判決の変更を求めることができるか。

民事訴訟法第117条による事情変更による訴え提起が可能と考えられます。


【参照条文民事訴訟法第117条1項】

口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。


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