Q.頭蓋骨骨折になるとどのような症状になりますか。すべて高次脳機能障害等の重症なるのでしょうか。

[てんかん,びまん性軸索損傷,円蓋部,急性硬膜下血腫,脳挫傷,頭蓋内出血,頭蓋内圧亢進,頭蓋骨骨折]

A.

頭蓋骨骨折は,決して軽い問題ではありませんが,すべてが重症化すると言うことではありません。
重要なことは脳損傷をもたらすかどうかです。
したがって,頭蓋骨骨折あり→脳損傷は常に成り立つものではなく,逆に頭蓋骨骨折なし→脳損傷もあり得るということです。

1 頭蓋骨と頭蓋底について
頭蓋骨自体は運動器ではありません。脳を保護する器です。
背骨に接する部分が頭蓋底部です。一般に頭蓋骨というのは円蓋部と呼ばれます。
頭蓋底とは,文字通り頭蓋骨の底の部分です。

2 頭蓋骨骨折とは 
頭蓋骨骨折とは,頭蓋骨の骨折です。
そして,頭蓋円蓋部骨折と頭蓋底骨折とに分けられます。

3 重症化して後遺障害(後遺症)となるおそれのある頭蓋骨骨折は,次のものです。 
(1) 円蓋部線状骨折(新生児・乳児は注意)
(2) (円蓋部)陥没骨折(陥凹骨折)
(3) 側頭骨骨折

4 特に重症化する頭蓋底骨折 
症状は,頭蓋底の前部・中部・後部の3つにいずれかにより異なってきます。


5 高齢者の頭蓋骨骨折の特徴
高齢者は,交通事故に遭いやすく,頭蓋骨骨折を生じやすい特徴があります。

6 小児頭部外傷,特に小児頭蓋骨骨折の特徴
小児は頭部の占める割合が大きく,成長段階にあることから頭部外傷に関しても特徴があります。

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1 頭蓋骨と頭蓋底について (クリックすると回答)

(1)頭蓋骨の役割
頭蓋骨自体は運動器ではありません。脳を保護する器です。
従って,頭蓋骨骨折そのものでは重症化して障害が生じるわけではありません。
しかし,頭蓋骨骨折に伴って周辺の組織が損傷したりあるいは,衝撃によって頭蓋内血腫が生じたことで後遺障害(後遺症)が残ることがあります。
さらに,骨折するだけの外力が加えられたのですから,脳に対する様々な外力が加えられたことによって後遺障害(後遺症)となる危険があります。

(2)頭蓋骨の分類
骨のレベルで言うと,脊柱つまり背骨の上に頭蓋骨は乗っかっています。
背骨に接する部分が頭蓋底部です。そして一般に頭蓋骨というのは円蓋部と呼ばれます。
円蓋とはドームのことです。円蓋部は一つの骨なのですが,骨折の場合には特に顔面部について顔面骨折と言います。

(3)頭蓋底とは
頭蓋底とは,文字通り頭蓋骨の底の部分です。
水平に,つまり上から見ると,前・中・後の三部分に分けることが出来ます。
そこで,前頭蓋窩・中頭蓋窩・後頭蓋窩と呼ばれています。
頭蓋骨の底のくぼみというイメージです。

この場合,顔=目の方向から前・中・後の三部分に分けます。

前頭蓋窩は,薄い骨で形成されておりますが,嗅神経と視神経が通っています。頭蓋骨骨折が生じると損傷が生じやすいとされています。
中頭蓋窩には,動眼・外転・滑車の外眼筋に関わる神経と三叉神経が通っています。
後頭蓋窩には,顔面神経・聴神経,さらには舌咽・迷走・副神経,そして舌下神経が通過しています

2 頭蓋骨骨折とは (クリックすると回答)

頭蓋骨骨折とは,頭蓋骨の骨折です。
そして,頭蓋円蓋部骨折と頭蓋底骨折とに分けられます。
骨折の形状で,線状骨折・粉砕骨折・陥没骨折に分けられます。
粉砕骨折は,複数の骨折線がある線状骨折と同様のものと,ばらばらに砕けて陥没骨折になっているものに分けられます。
そのために,線状骨折と陥没骨折という分け方もあります。

3 重症化して後遺障害(後遺症)となるおそれのある頭蓋骨骨折は (クリックすると回答)

(1) 円蓋部線状骨折(新生児・乳児は注意)
線状骨折としては,円蓋部に最も発生しやすいとされています。
特に治療の必要がなく,保存的に骨癒合が起こり,重症ともなることはありません。
しかし,骨折線が中硬膜動脈溝を横断しているような場合には,それらの損傷で硬膜外血腫が起こることがあります。

ただし,新生児・乳児は骨形成が十分でないことから,線状骨折でも脳挫傷を生じて,さらに骨折線拡大を生じる進行性骨折を起こすことがありますので,注意が必要です。
【後遺障害(後遺症)】
後遺障害(後遺症)のおそれはあります。その場合には脳損傷の程度によりますが,12級から1級までの可能性はあります。

(2) (円蓋部)陥没骨折(陥凹骨折)
円蓋部のみに見られるとされています。
これは小児と成人で骨折の状況が異なります。
小児は,骨形成が十分でない代わりにまだ柔軟性があります。
そこで,骨折はピンポン球をつぶしたような文字通りの陥没骨折となります。

しかし,成人は骨が固くなっており,その弾性が低く陥没骨折から,小骨片に分解した粉砕骨折となりやすいとされています。
さらに悪いことに開放骨折になりやすく,その骨片が脳に達して脳挫傷を発生させる複雑骨折となりやすいとされます。
この場合には,重症化の危険があります。そして,後遺障害としても脳損傷となり,高次脳機能障害あるいは,部位に応じての局所的な失語,失行,失認といった重度の後遺障害となるおそれがあります。

【後遺障害(後遺症)】
脳が局所的に圧迫されるために脳障害,さらには脳波異常を伴うてんかん発作となる可能性があります。
脳障害についても部位によるために様々な後遺障害(後遺症)があり得ます。

(3) 側頭骨骨折
顔面神経麻痺のほか,内耳,耳小骨,鼓膜,内・外耳道,耳介,軟部組織の損傷が起こります。さらに髄液漏が生じることもあり髄液減少の原因ともなります。
症状としては,上記の顔面神経麻痺が代表的ですが,これには即発性のものと遅発性(受傷後24時間経過して発症)のものとがあります。
遅発性の中には,受傷後10日ということも珍しくないとされています。しかし,多くは経過は良好で改善することが多いとされています。
さらに,難聴,めまいを生じることもあります。特に迷路骨包に骨折線が入ると高度感音難聴となり得ます。

(4)眼窩下面の線状骨折
眼窩下面の線状骨折では眼球周辺の損傷となり外眼筋に損傷を与えて眼球運動障害を伴うとされています。
【後遺障害(後遺症)】
複視となる可能性があります。正面視で複視の症状となれば8級2号です。

4 特に重症化する頭蓋底骨折とは (クリックすると回答)

(1)頭蓋骨にたわむような力が働くことによって頭蓋底に屈曲した線状骨折が生じたものをいいます。

(2)頭蓋底には,神経や血管が張りめぐらされていることから,脳神経や血管の損傷を合併したり,髄液が漏れたり,空気は入ってきて頭蓋内気腫を合併することがあります。
症状は,頭蓋底の前部・中部・後部の3つにいずれかにより異なってきます。

a)前部頭蓋底骨折(医学用語としては,前頭蓋窩骨折)眼の周りの皮下出血によるパンダの目徴候や鼻血が特徴です。

【後遺障害(後遺症)】
骨折の状況により,嗅覚障害,視神経管まで及べば視力障害が発生します。嗅覚脱失となれば12級相当一眼の視力を失えば9級2号,視野狭窄となれば9級3号

b)中部頭蓋底骨折(医学用語としては,中頭蓋窩骨折)耳出血が特徴です。

【後遺障害(後遺症)】
骨折の状況により,顔面神経麻痺,聴力障害,外眼筋運動麻痺,三叉神経麻痺があります。

c)後部頭蓋底骨折(医学用語としては,後頭蓋窩骨折)皮下出血はありますが,脳神経麻痺はないとされています。
【後遺障害(後遺症)】
特になし。

(3)脳損傷との合併頭蓋底骨折と脳損傷とが合併している場合には,意識障害を生じてその後に高次脳機能障害等の後遺障害が残存する可能性があります
。【後遺障害(後遺症)】
12級から重症化すれば9級以上の可能性があります。

5 高齢者の頭蓋骨骨折の特徴は何ですか (クリックすると回答)

高齢者は,交通事故に遭いやすく,またその結果として頭蓋骨骨折を生じやすい特徴があります。そして加齢から生じる様々な問題があります。

① 交通事故によるものが多い
注意力と動作の緩慢さから防御反応が低下していることから,歩行中の事故が頭部外傷に結びつきやすくなります。つまり,もう少し若ければ上肢・下肢・体幹の骨折ですんだものが,転倒によるなどして頭部外傷となりやすいと言えます。

② 頭蓋骨骨折となりやすい
骨皮質が薄くなっている上に,骨粗鬆症もあるために,頭蓋骨の弾力性は低くなっています。そのため同程度の外力でも高齢者の場合には頭蓋底骨折や粉砕骨折となりやすいのです。

③ 合併症を起こしやすい
加齢によって,頭蓋骨と硬膜との癒着が強くなっているために,骨折と共に硬膜も断裂しやすくなっています。
そのために頭蓋底骨折では髄液漏を合併しやすくなります。また感染症も合併しやすくなります。
しかし,頭蓋骨と硬膜の癒着が強いために硬膜外血腫の発生率は低いと言われます。

④ 頭蓋内血腫・脳挫傷の発症率が高い
高齢者のために脳萎縮が進んでいます。そのために頭蓋と脳との隙間が広いために頚椎を支点として加速度運動が加えられた場合には,脳が激しく運動して血管の断裂が生じやすくなります。
したがって頭蓋内血腫・脳挫傷の発症率が高いのです。

他方では,頭蓋内血腫が生じたとしても,隙間が広くて余裕があり,脳内の水分含有量が低いことから脳浮腫が生じにくく,生じたとしても遅い傾向があります。
そのために,頭蓋内圧亢進の進行が遅くなります。
そのことはよいのですが,逆に,症状悪化の診断が遅れやすいか見のがしやすいとされています。

⑤ 時として致命傷になりかねない
高齢であるために,脳にとどまらない,心臓・肺・腎臓といった全身機能の障害を伴い,それが事故による受傷後の二次的脳損傷を生じやすいとされています。
また,衰弱している中で合併症を併発すると致命的なものとなるリスクも高いものです。

6 小児頭部外傷,特に小児頭蓋骨骨折の特徴は何ですか(クリックすると回答)

小児は頭部の占める割合が大きく,成長段階にあることから頭部外傷に関しても特徴があります。これは頭蓋骨骨折でもそうです。

① 頭部外傷を受けやすい
まず特徴としては,小児は頭部外傷を受けやすいことにあります。
それは,小児は頭部の占める割合が大きく,小脳の発達が十分ではないために転倒しやすいことにあります。
そして,転倒したための接触損傷だけではなく,加速度損傷も起こしやすいことになります。
特に2歳以下では仰向けに転倒したような場合には,脳挫傷を伴わない硬膜下血腫を発症するリスクもあります。

② 頭蓋骨がまだ柔らかい
そのために陥没骨折が多くなっています。それもピンポン球骨折となり,粉砕骨折にはなりにくいとされています。
また柔らかいため頭蓋骨骨折がはっきりしていなくとも,その下に出血や損傷をしていることがあります。

③ 硬膜と頭蓋骨の癒着が強く,硬膜が薄い
そのために,頭蓋骨骨折と併せて硬膜裂傷が起こりやすく,進行性頭蓋骨骨折になることが多くあります。

④ 骨癒合が十分ではない
そのために骨折のない硬膜外出血が発生することがあります。しかし,硬膜と頭蓋骨の癒着が強いために,硬膜外血腫が発生しても出血が拡大することは少ないとされています。

頭蓋骨は骨が成長と共に完全に縫合して閉じていきます。乳児以下では泉門があり完全には閉じておらず,幼児でも癒合が十分でないために骨縫合離開が起こりやすいのです。このことは,頭部外傷に対して頭蓋内圧亢進を圧力を逃がして起こりにくくする作用となります。だが,いったん頭蓋内圧亢進が出現すると急激に悪化します。

⑤ 循環血液量が少ない
そのために,頭蓋内出血により出血性ショックを起こしやすく,小さな血腫での出血量程度であっても循環血液量の現象を生じて貧血を起こしやすくなります。

⑥ 脳が発達する可能性が残されている
そのために,成人に比較して脳損傷からの機能的な快復力が良いと言えます。
しかし,反面脳が未成熟であるために外傷後に早期てんかんを起こしやすいとされています。

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