Q.独身男性の死亡逸失利益の生活費控除率を50パーセント以下とするのは,どのような場合ですか。

[一家の支柱,死亡,独身,生活費控除,男子,男性]

A.

就労可能期間全体を通じて50%の生活費控除をするのが,裁判実務における一般的な扱いです。
しかし,実質的に「一家の支柱」と言える場合,あるいは「それに類した,準じた」場合には生活費控除率を50%よりも下げることがあります。

1 原則(クリックすると回答)


死亡による逸失利益を算定するときは,得べかりし収入額から生活費相当分を控除するとされていますが,死亡した者が生存していたならば,将来にわたり,収入のうちどの程度の割合を生活費として費消したのかは,事柄の性質上,これを証拠に基づいて相当程度の確かさをもって認定することは困難です。

したがって,生活費控除率は,特段の事情がない限り,被害者の性別,家族構成,年齢など,被害者の死亡当時の事情を基礎として,ある程度類型的に,収入額に対する一定割合をもって定めるのが相当であり,
死亡後の事情については,それが具体的に明確になっているような場合を除き,これを考慮することは,損害賠償額算定の方法としては相当でないと考えられています。


その結果,独身男性が死亡した場合には,個々の事案において将来扶養すべき家族を持つ蓋然性の存否を問題にすることなく,就労可能期間全体を通じて50%の生活費控除をするのが,裁判実務における一般的な扱いです。

2 例外(クリックすると回答)


判決例としては,実質的に「一家の支柱」と言える場合,あるいは「それに類した,準じた」場合には生活費控除率を50%よりも下げることがあります。

家族構成,収入等を考慮しています。
認定された生活費控除率も30,35,40,45%と幅があります。

3 具体例(クリックすると回答)


母子家庭あるいは父親の病気等で重要な家計の担い手であった場合,
あるいは,
結婚を具体的に控えていたり,認知により扶養義務を負うべき子がいたりした場合には,

生活費控除率を50%よりも下げる,言えます。

以下に具体的な判決例を示します。


(1)生活費控除率を45%
父親が薬物中毒による精神病で入退院を繰り返しており,母親を助けて家計の維持を計っていたとされ,一家の支柱とに類した立場にあったもの
広島地裁 平成3年8月7日判決
事件番号 平成2年(ワ)第1056号
<出典> 自保ジャーナル・判例レポート第99号-No,11

(2)生活費控除率を40%
中国残留孤児であった母親とともに父親,6人の子供が帰国し,長男として一家を支えて会社員として稼働していた33歳独身男子
東京地裁 平成5年6月15日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1034号 交民集26巻3号734頁

(3)生活費控除率を30%
父親が事故前年に死亡して母親と2人生活で扶養する立場であった26歳独身男子運転手
大阪高裁 平成12年11月30日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1337号

(4)生活費控除率40%
母親と同居し扶養する27歳高校中退独身男子運転手の雇用26日目の事故
札幌地裁 平成13年7月31日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1425号

(5)生活費控除率35%
女子短大の教授を勤める傍ら,別の大学で非常勤講師も兼務して高齢になる両親と同居していた58歳独身男子
大阪地裁 平成12年9月21日判決
<出典> 交民集33巻5号1550頁

(6)生活控除率40%
大学卒業後,消防士として稼働して,精神障害を有する実兄に代わり将来一家の支柱的な役割を担う可能性が高かった27歳独身男子
大阪地裁 平成12年9月12日判決
<出典> 交民集33巻5号1481頁

(7)生活費控除率40%
認知審判の確定により事故当時1歳児の養育費等の取り決めがなされていた23歳男子
東京地裁 平成20年12月24日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1797号

(8)生活費控除率45%
経済的援助が家計の支えの一つとなっていて,事故当時,婚姻を考えていた女性があった31歳独身男子
東京高裁 平成22年10月28日判決
<出典> 自保ジャーナル・第1836号

(9)生活費控除率45%
母を二男と2人で扶養していた30歳独身男子
名古屋地裁 平成23年11月25日判決
<出典> 交民集44巻6号1459頁

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