Q.事業所得者(個人事業者)の休業損害・逸失利益として申告所得を超える基礎収入(申告外収入)が認められることはありますか。

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A.

事業所得者(個人事業者)が,休業損害として請求できるのは,現実の収入減があった場合とされています。
通常は,事故前年度の確定申告額を前提に基礎収入が算定されます。
また,逸失利益の基礎収入も同様とされています。
しかし,申告所得を超える収入(申告外収入)を認める場合もあります。


1 修正申告をした場合に修正後の金額を認める場合がありますか。(クリックすると回答)


修正申告をしたならば,それを基礎収入に簡単にするのかと言うことにはなりません。

修正申告が賠償額の目的ではなく,実態に合ったものでなければならないということです。
当初の申告を修正するのに合理的な理由があり実態に沿うものである場合には,修正申告後の所得額(年額1151万円余)を基礎収入とすると言えます。
その実態の中には,所得のみならず,就労の実態も個人事業者の場合には,しっかりと証明する必要があります。 (大阪地判平成12年1月27日,自動車保険ジャーナル・第1341号)

2 固定経費の調整による場合もありますか。(クリックすると回答)


個人事業者の場合には,確定申告額が少ない理由に,固定経費として実際には生活費に混入している部分もあります。
確定申告額そのままを基礎収入とすると年齢別平均賃金を下回るばかりか,生活保護レベルの金額となってしまう事案も多いと思われます。

固定経費も個人事業者の場合には,基礎収入に算入する方法がとられています。
その点に関連させて,
「収入を得るために要する経費としては,電話代,ガレージ代等の事務所経費のほか,高速代,ガソリン代,自動車保険料等の車両関係費や交際費等が少なくとも月額8万円程度ある」として基礎収入を確定申告額は100万円余であるにも関わらず年額550万円を認定するのも,一つのやり方です。

(大阪地判平成13年2月15日,交民集34巻1号224頁)

3 過少申告であることを前提に経費率を修正する場合もありますか。(クリックすると回答)


個人事業者と分類される中には,多くの現場仕事に携わる一人親方と呼ばれる人がいます。
一人親方と言っても,完全にフリーで仕事を受けると言うよりも特定の会社から請負をしており,実態は雇用と変わらない場合があります。

架空の経費を控除して税金申告として過少申告をするのは,決して誉められることではありません。
しかし,賠償額としての基礎収入を判断するときには,実際の経費率を判断して修正の上で判決を出すことがあります。
申告の経費率は事故の前年は約57%,事故年は約66%であるが,実際の経費は通信費及び消耗品費程度であることから経費率を5%程度とした大阪地判平成15年12月24日(交民集36巻6号1671頁)があります。


4 賃金センサスによる場合もありますか。(クリックすると回答)


いわゆる過少申告であったとしても,借入金や住宅ローンがあり,それをきちんと返済していること及び生活実態について主張,証明がされれば,少なくとも年齢別平均賃金の基礎収入が認められるとされることがあり得ます(大阪地判平成18年2月10日,交民集39巻1号156頁,神戸地判平成19年10月1日,自動車保険ジャーナル・第1743号)。

また,税金申告において売上についての不正がなく,経費等の操作によって,結果として過少申告になっているならば,実態等から,少なくとも,賃金センサスによる平均賃金は認められるとも言えます。(大阪地判平成20年3月11日,交民集41巻2号283頁)


5 現実収入を認める場合もありますか。(クリックすると回答)


過少申告であっても,それを上回るような実収入がある場合には,それが事実であるとの証明がなされていれば,それを基礎収入とする余地があると言えます。
が過少申告をしていた事実があっても,その申告額によらずに基礎収入額を主張とおりに認定することもあり得ます。
その場合にも税金申告に提出したものではなくメモや覚え書きであっても,その成立と内容の信用性があれば認められる可能性はあると言えます。

個人タクシー運転手について過少申告であることを前提に妻作成のノートに記載された売上金額に基づいて休業損害の基礎収入を認めた判決です(内助の功判決?)。
(横浜地判平成20年9月4日,自動車保険ジャーナル・第1757号)


6 専従者給与及び固定経費を加算する場合もありますか。(クリックすると回答)


基礎収入として確定申告所得額に専従者給与分及び固定経費を加算したものを認定することがあります。
固定経費を加算することは原則通りです。
その上で,専従者給与も実質的に被害者の働きにより稼いでいる収入であるとして加算されることがあります。
(名古屋地判平成22年10月15日,自保ジャーナル・第1840号)


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