Q.前頭葉損傷による高次脳機能障害は,どのようなものですか。

[MRI,PTSD,うつ,前頭葉,外傷性脳損傷,意識障害,眼窩面]

A.

前頭葉が損傷すると,高次脳機能障害としても家族や他人からわかりにくく,さらに被害者自身の自覚のない幅広い意味で言うと「人格変化」が現れることがあります。
その場合には,全般的知能あるいは記憶機能の低下がないか,大きな変化がなく,なかなか外傷性脳損傷によるものと気付かれにくいものが多くあります。
(以下,「精神の脳科学」東京大学出版会第2章村井俊哉京都大学大学院教授執筆部分より引用)
引用された具体的な症状には,次のようなものがあります。
金銭管理ができない
家に引きこもり,すぐにかっとなる
理不尽な経営判断をする
意欲の低下が目立つ
感情がわいてこなくなった

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1 金銭管理ができない
バイク事故後に事故前とは異なり,遊興で金を浪費して借金を重ね周囲からは「金遣いが荒い性格」とされる。
事故後の全般的知能,記憶能力は平均をやや下回る程度であり,「金遣いが荒い」ことの説明がつかないでいた。
ところが,MRI検査をしたところ,10年前のバイク事故による両側前頭葉,特に眼窩面(前頭葉の底面)の大きな損傷があることが分かり,症状は「金遣いが荒い性格」ではなく,外傷性の前頭葉損傷が原因と判明しました。

2  家に引きこもり,すぐにかっとなる
暴力事件に巻き込まれて意識障害が3週間も続いた後に退院。
次第に,家族や周囲の人への暴言や暴力が多くなり,事件による外傷後ストレス障害(PTSD)と精神科で診断されて投薬治療を続ける間に,外出せずに家に引きこもりがちになりました。事件に遭う前の活発で明るい性格が一変したようになりました。
また,全般的知能あるいは記憶機能にも特に問題はありませんでした。
ところが,MRI検査をしたところ,両側前頭葉,特に眼窩面(前頭葉の底面)に広がる大きな損傷があることが分かり,引きこもりと怒りっぽさは,この損傷が原因と考えられました。

3  理不尽な経営判断をする
歩行中に自動車にはねられて救急搬送されて,1週間意識障害がありました。退院後事故前の非常に精力的で経営する事業における仕事の能力が高いという評価であったのが,事故後には,意欲の低下が目立ち,家に引きこもりがちになりました。さらに,理不尽な経営判断が相次いだため,精神科を受診したところ,全般的知能あるいは記憶機能は平均を上回る良好な成績で理不尽な行動と相矛盾するものでした。
ところが,MRI検査をしたところ,両側前頭葉,特に眼窩面に傷があり,病変のあることが確認されました。

4  意欲の低下が目立つ
自転車運転中に自動車事故に遭い,意識障害もあったものの回復して退院。
退院後,集中力と意欲の低下,不安感,不眠などの訴えから精神科を受診。
事故前は明るい外交的な性格であり,接客の仕事をしていました。
全般的知能あるいは記憶機能は,問題はなし。
ところが,MRIでは右前頭葉の背外側面に脳挫傷が認められました。
車への恐怖は,意識障害があったためにPTSDとは異なり,後日他人から聞いた情報を元にして生じた車や道路横断に対しての恐怖症とされました。

5  感情がわいてこなくなった
交通事故による前頭葉損傷で3ヶ月入院をし,退院後に人柄の変化に家族が気付きました。事故前は内向的ながらも日曜大工などの物作りが趣味であったのが,事故後には物作りに関心を示さず活動性の低下が目立ってきました。知能指数は極めて高く(IQ132),記憶能力にも問題はありません。復職も問題なく可能となりましたが,事故前には緊張する場面でもまったく緊張をしなくなったと言います。
感情が喜びも不安も希薄になり,平坦となってしまって,その結果として行動の量が減っていったと考えられます。

6 以上のケースでのまとめ
1から5では,意欲の低下とそれによる行動量の減少が見られます。さらに,知能や記憶の能力の低下はないにもかかわらず,社会的活動で重要な金銭や財産管理における判断のまずさが見られます。
他者への攻撃性,反社会的行動は見られる場合と見られない場合とがあり,個人差が大きいと言えそうです。
なお,前頭葉損傷の中でも眼窩面の場合が多いことも特徴です。
その場合には,前頭葉の底面に当たることから嗅覚障害を伴っていることがほとんどであり,嗅覚障害から逆に前頭葉損傷が発見されて高次脳機能障害としての人格の変化と判明したものもあります。

7 神経心理学的検査の落とし穴
前頭葉損傷の一つの特徴は,脳損傷により知能・記憶レベルが低下しないと言うことです。
平均以上の知能が保たれていることから,脳損傷ではなく,精神的疾患,特に事故後のうつ症状と家族のみならず医師も判断することが多くあります。
1から5までの事案は,前記村井教授の著書によっておりますが,極めて医学的に整然と整理されていることから,説明の便宜上利用させていただきました。
このような人格の変化においては,神経心理学的検査では判断ができないのです。
むしろ,神経心理学的検査では正常範囲であると言うことを信じてしまうと落とし穴に入ってしまうことになります。

しかし,高次脳機能障害について認知障害とは性格が異なる人格の変化を主要な症状としているものが現実には多数を占めている可能性があります。
当然に,私ども事務所での案件でも取り扱った中においても少なからず見受けられるものです。
そして,このような人格変化を主訴とする高次脳機能障害においては知能レベルの低下のないことから自賠責認定等級までの労働能力喪失がないと訴訟で争われることもままあります。

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