Q.25歳から30歳までの比較的若い男性就労者の逸失利益において裁判所の基礎収入の考え方はどうなってるでしょうか。特に,アルバイト等非正規雇用で現実の収入が少ない場合はどうでしょうか。

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A.

実収入ではなく,全年齢学歴計男子労働者計平均賃金を基礎収入にするものが多いと言えます。
しかし,事故前の職歴が安定していなかったり,あるいは実収入が同年齢から見てかなり低い場合には,学歴計あるいは学歴別に対して一定割合(8割程度)をかけたものを基礎収入とする傾向にあります。

いわゆる三庁共同宣言以降の平成11年から20年の判決を検討します。
25歳から30歳の比較的若い男性就労者に関する判決例は,15事例あります。職種はアルバイト,派遣社員等です。

1 全労働者(男女計)か男子労働者計か  (クリックすると回答)

全労働者(男女計)は1例(⑨28歳男子 神戸地裁 平成13年4月6日判決)のみで残る14例が男子労働者計と圧倒的です。
⑨は,「現実の収入が年収200万円にも満たない」ために男子労働者計まで得られた蓋然性がないという理由です。
全年齢男子学歴別(高校卒)と年齢別男子学歴別(高校卒)の中間の金額として全労働者(男女計)全年齢が当たるために,結果の妥当性を図る目的もあったものです。

2 年齢別平均額か全年齢平均額か (クリックすると回答)

年齢別は4例だけで残る11例は全年齢と圧倒的です。
しかし,18歳から24歳まででは,15例中1例であったことから比較すると,年齢が高くなるにつれて年齢別賃金となりやすいと言えます。
特に,その4例が27歳以上に集中していることからもうかがうことができます。

3 学歴別平均額か,学歴計平均額か (クリックすると回答)

学歴別は5例で,残る10例は学歴計です。
18歳から24歳まででは,学歴別は10例で,学歴計は5例であったのに,逆転しています。年齢とともに,経歴の1つとして学歴も考慮の対象になりやすいのかもしれません。

4 基礎とする平均賃金から減額しているか  (クリックすると回答)

減額するのは3例のみで残る12例は減額していません。
この点については,3と合わせて検討するとわかりやすいと思います。

①25歳 学歴計×0.8
②25歳 学歴別(短大卒)
③25歳 学歴計
④26歳 学歴計×0.8
⑤27歳 学歴計
⑥27歳 学歴計
⑦27歳 学歴計
⑧28歳 学歴別(高校卒)
⑨は,(1)で述べたとおりです。
⑩29歳 学歴計
⑪29歳 学歴別(高校卒)
⑫29歳 学歴別(高校卒)
⑬30歳 学歴別(高校卒)×0.8
⑭30歳 学歴計
⑮30歳 学歴計

減額している3例について検討します。
①25歳 学歴計×0.8
事故当時の勤務先に就労して8ヶ月しかたっていないこと,現実の収入が同年齢の平均賃金よりもかなり低いことから,8割をかけたと考えられます。

④26歳 学歴計×0.8
大卒ですが,派遣社員として「フィットネス業界という必ずしも学歴とは関係のない業界へ転身を図ったこと等や年齢等に鑑み」ということになります。

⑬30歳 学歴別(高校卒)×0.8
同年齢の⑭⑮が学歴計でそのまま認めたこととは対照的です。
「今まで比較的短期に就職と退職を繰り返していたことから」と職歴についての評価が加えられて結論が同年齢の⑭⑮とは異なったと思われます。

5 まとめ  (クリックすると回答)

実収入ではなく,全年齢学歴計男子労働者計平均賃金を基礎収入にするものが多いと言えます。
しかし,事故前の職歴が安定していなかったり,あるいは実収入が同年齢から見てかなり低い場合には,学歴計あるいは学歴別に対して一定割合(8割程度)をかけたものを基礎収入とする傾向にあります。

6 検討した判決例要旨紹介【参考】(クリックすると回答)

①25歳男子 東京地裁 平成19年8月21日判決
被害者=25歳男子,アルバイトに類する立場
被害状況=後遺障害1級1号(完全対麻痺,膀胱直腸障害等)
基礎収入=全年齢学歴計男子労働者平均賃金の8割

②25歳男子 大阪地裁 平成18年5月16日判決
被害者=25歳男子,柔道整復師見習いアルバイト(コンピュータ技術資格を有する柔道整復師専門学校入学直前)
被害状況=死亡
基礎収入=全年齢学歴別(短大卒)男子労働者平均賃金

③25歳男子 京都地裁 平成12年8月17日判決
被害者=25歳アルバイト男子
被害状況=一じん臓亡失8級11号
基礎収入=年齢別学歴計男子労働者平均(なお,喪失率は15%)

④26歳男子 東京地裁 平成20年11月26日判決
被害者=26歳男子,大卒男子派遣社員(フィットネスクラブでインストラクター2か月)
被害状況=12級外貌醜状
基礎収入=全年齢学歴計男子労働者平均賃金の8割(フィットネス業界という必ずしも学歴とは関係のない業界へ転身を図ったこと等や年齢等に鑑み)

⑤27歳男子 東京地裁 平成12年2月29日判決
被害者=27歳男子,東京芸術大学・大学院修士課程を修了,美術学院でアルバイト
被害状況=死亡
基礎収入=全年齢学歴計男子労働者平均賃金

⑥27歳男子 東京地裁 平成17年1月25日判決
被害者=27歳男子,姉の自営する飲食店でアルバイト
被害状況=後遺障害等併合14級
基礎収入=年齢別学歴計男子労働者平均賃金

⑦27歳男子 福岡地裁 平成18年9月28日判決
被害者=27歳男子,複数のアルバイトをしていた
被害状況=後遺障害3級3号(高次脳機能障害)
基礎収入=全年齢学歴計男子労働者平均賃金

⑧28歳男子 大阪地裁 平成12年12月6日判決
被害者=28歳男子,陶芸家となるため作家のもとで助手として住み込み修行し収入を得る傍ら工務店で型枠大工として勤務
被害状況=左足関節機能障害による後遺障害等級12級7号
基礎収入=全年齢学歴別(高校卒)男子労働者平均賃金

⑨28歳男子 神戸地裁 平成13年4月6日判決
被害者=警備アルバイトをしながら夜間大学に通う28歳男子
被害状況=12級相当の後遺障害
基礎収入=全労働者平均賃金

⑩29歳男子 名古屋地裁 平成17年4月13日判決
被害者=29歳男子正社員を退職して再度専門学校で修学しながらコンピューター派遣社員
被害状況=右手首に10級10号後遺障害
基礎収入=全年齢学歴計男子労働者平均賃金(なお,現実の減収がなかった)

⑪29歳男子 大阪地裁 平成19年3月28日判決
被害者=29歳男子大学中退,中退後2回転職して事故当時就職したばかり
被害状況=死亡
基礎収入=全年齢学歴別(高校卒)男子労働者平均賃金

⑫29歳男子 東京地裁 平成20年5月8日判決
被害者=29歳男子,高校卒業後数度転職後に契約社員として運送会社で配達業等に従事被害状況=後遺障害1級1号(胸椎以下麻痺)
基礎収入=年齢別学歴別(高校卒)男子労働者平均賃金

⑬30歳男子 大阪地裁 平成17年10月5日判決
被害者=30歳男子派遣社員
被害状況=後遺障害10級
基礎収入=全年齢学歴別(高校卒)男子労働者平均賃金の8割(今まで比較的短期に就職と退職を繰り返していたことから)

⑭30歳男子 横浜地裁 平成17年2月3日判決
被害者=30歳男子,俳優学校生・アルバイト
被害状況=後遺障害等併合11級
基礎収入=年齢別学歴計男子労働者平均賃金

⑮30歳男子 名古屋地裁一宮支部 平成16年3月30日判決
被害者=30歳男子,大学法学部卒業後司法書士を目指し退職,アルバイトしながらの受験生
被害状況=排泄障害を伴う後遺障害1級3号
基礎収入=全年齢学歴計男子労働者平均賃金

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