Q.びまん性脳損傷は画像所見がないと認められないのですか。

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A.

 

交通事故によるびまん性脳損傷により高次脳機能障害が発症したかについては事故後の脳萎縮・脳室拡大を示す画像所見がないこともあります。その場合に事案によれば明らかな画像所見がなくとも認められることがあります。

1 びまん性脳損傷とは
交通事故による脳損傷には,脳挫傷,脳出血といった局在的脳損傷とは異なるびまん性軸索損傷によるびまん性脳損傷があります。(リンク)びまん性脳損傷によっても高次脳機能障害が発症するリスクが極めて高いとされています。それにも関わらず,びまん性軸索損傷は,受傷時には局在的脳損傷と異なり,脳の出血が画像によっても見つけにくく,見落とされやすいという特徴があります。
2 交通事故を原因とするためのポイント
高次脳機能障害が器質性脳損傷による,つまり交通事故を原因とされるためには,以下の4つが基本的なポイントとなります。
(1)頭部打撲・受傷
(2)頭蓋内の受傷
(3)障害残存画像(事故後の脳萎縮・脳室拡大を示す画像)
(4)事故直後の意識障害
(1)の「頭部打撲・受傷」があれば,多くの場合には(2)の「頭蓋内の受傷」が発症しており,それが脳挫傷,脳出血といった局在的脳損傷であればその受傷を示す「画像」が得られます。そして,治療経過後に症状が残存している可能性を示すのが(3)の「障害残存画像(事故後の脳萎縮・脳室拡大を示す画像)」です。「(4)事故直後の意識障害」については,局在的脳損傷では,余り問題となりませんが,びまん性軸索損傷による脳損傷において画像所見と並んであるいはそれを補うものとして頻繁に問題となります。
3 びまん性脳損傷の特徴
びまん性軸索損傷→びまん性脳損傷→高次脳機能障害という流れの中で,果たしてびまん性軸索損傷が発生していたのか,受傷時点では,(1)頭部打撲・受傷があっても,(2)頭蓋内の受傷が受傷時点での画像では明らかではないことが多いといわれています。逆に,受傷時点の画像には異常が認められないことの方が多いともいわれています。(リンク)そこで,びまん性脳損傷においては,その有無や程度について(4)事故直後の意識障害と,外傷後おおよそ3ヶ月以内で完成するとされているびまん性の脳萎縮・脳室拡大を示す画像,つまり(3)障害残存画像が重要となってくるのです。
4 びまん性脳損傷における画像所見の意味
ここで,画像所見には2つあることがおわかりかと思います。すなわち(2)頭蓋内の受傷,つまり事故直後の受傷を示す画像と,(3)障害残存画像(事故後の脳萎縮・脳室拡大を示す画像)です。そして,びまん性脳損傷における画像所見で意味があるのは,(2)頭蓋内の受傷,つまり事故直後の受傷を示す画像ではなく,(3)障害残存画像とういことになります。その点からいえば,びまん性脳損傷→高次脳機能障害を認めるのには(2)頭蓋内の受傷,つまり事故直後の受傷を示す画像では,異常を示すものが映っていなくとも問題にはならないことになります。
5 障害残存画像に異常所見がなくともよいのか。
びまん性脳損傷として高次脳機能障害を認めるために障害残存画像に異常所見が絶対に必要なのかどうか,実はこれが最も重要な問題点です。この点は,高次脳機能障害の診断基準として検査所見としても「MRI,CT,脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか,あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。」とされており,画像所見による脳萎縮・脳室拡大は,不可欠な要件と言っておりません。しかし,それではどうすれば「脳の器質的病変が存在したと確認できる。」かが問題なのです。
障害残存画像に異常所見がなくとも,高次脳機能障害を認めたものとしては次のものがあります。
(1)名古屋地裁 平成12年5月29日判決   3級
(2)神戸地裁 平成18年4月14日判決   12級
(3)神戸地裁 平成20年10月14日判決  5級
(4)大阪高裁 平成21年3月26日判決      9級
(5)東京地裁 平成21年3月31日判決 5級又は3級
(6)岡山地裁 平成21年4月30日判決      9級
(7)名古屋地裁 平成21年7月28日判決    7級
なお,(1)名古屋地裁判決は,被害者の脳は,「MRI検査でびまん性軸索損傷による軽度脳萎縮像が認められ」る場合であるため,「(3)障害残存画像における所見」と呼べるものがわずかながらあると言える事案です。(7)名古屋地裁判決は,「(症状固定時の)頭部MRIにおける両側性前頭葉脳挫傷等」の残存があるとして脳萎縮・脳室拡大ではないが脳損傷による高次脳機能障害の所見があるとした事案です。
しかし,それ以外は,「(3)障害残存画像」における異常所見のない事案です。
但し,(2)神戸地裁を除く4判決ともにSPECT(放射性同位元素を用いて,脳局所の血流を測定する検査で,血流の低下や欠損が発見されると,同部位に機能低下があると推測できる)を重視しています。

(3)神戸地裁「SPECTを受け,両側の上前頭葉領域,右中心領域,左後頭葉,左小脳に血流低下を認めた。」
(4)大阪高裁「SPECT検査では,軽度ではあるが脳血流の低下が認められている」
(5)東京地裁「SPECT上,両側の頭頂-後頭葉領域に血流低下が認められ」
(6)岡山地裁「脳血流検査において,被害者の脳の両側前頭葉と左側頭葉に血流低下があり」
この点から,「(3)障害残存画像」における異常所見が見られなくとも,高次脳機能障害が認められると言うことは一般論として言えますが,多くは,SPECTによる血流低下があるか問いことを補助的ながら重視していると言えます。
更に言えば,(2)神戸地裁判決の事実の詳細は不明ですが,12級にとどまっていることは,SPECTの結果が認定されていないことと関連するかもしれません。また,(6)岡山地裁判決の趣旨は不明ですが,(4)大阪高裁判決が9級にとどまっているのは「SPECT検査では,軽度ではあるが」と言うことが影響しているかもしれません。
そして,軽度脳萎縮像が認められた(1)名古屋地裁判決が3級であるにもかかわらず,(3)障害残存画像における異常所見のないこれらの事案は,良くても5級にとどまっており,相対的に低い認定です。症状として3級が妥当と思われる事案でも,そのような差があるのであれば問題であると言えます。なお,SPECTはPETと同様に,脳の機能的以上が存在することを疑わせるにとどまり,脳損傷の存在を示すものではないので,これらの判決のようにMRI,CT画像所見の補充,さらには代替となるものとすることに対して,医学者,法律家両者から異論が出されております。その趣旨は,SPECTの結果を簡単に引用するのではなく,もっと病的変化を探求すべきであると言うことで,MRI,CT画像所見がなければ認めないという見解ではないと思われます。

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