将来の介護用具(車いす等)について6年毎び買い替えを前提に算定した判決です。

[介護,介護ベッド,期間,耐用年数,買替,車いす]

 
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手押し式車いす(36万6,000円)及び電動車いす(161万9,263円,備品含めて)を6年毎の買替を前提に算定したものです。さらに両下肢は不完全麻痺,上肢は完全麻痺等(1級相当)の被害者であることから電動書見台,情報支援通信用具についても認めています。


代表弁護士岡田正樹による出版物です

ごめんじゃすまない! 自転車の事故

むさしの森 法律事務所 岡田 正樹 (著)

本書の特長は事故を起こした加害者、事故に巻き込まれた被害者の真実をもとに、それぞれの苦しみや悲しみの物語、危険運転に対する違反切符と罰則、過失の割合、賠償・慰謝料の実例、自転車用の保険、和解に導く弁護士の役目など、あらゆる面から自転車事故を解説しています。 大切なお子さんを加害者に、被害者にもさせたくない。子を持つお父さん、お母さんには必携の書です。

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【いわゆる赤い本平成25年版p42の判決】
両下肢不完全麻痺,上肢はC5レベルの完全麻痺等(1級相当)の被害者(男・固定時19歳)につき,電動車いす代(61万円余)を6年毎に買替える必要があるとして,381万円余を認めた。
東京地裁 平成22年11月25日判決
事件番号 平成20年(ワ)第19110号 損害賠償請求事件
<出典> 自保ジャーナル・第1843号(平成23年4月14日掲載)

【前提の事実】
(a)原告太郎は,平成19年1月19日に,下肢機能及び尿閉について症状が固定した。原告太郎の頸椎は,前方が固定に至っておらず,食道穿孔による穴も塞がっていないため,その経過観察をしているところであり,食道穿孔が塞がった時点で,頸椎前方固定の再々手術の検討を行うことを予定している状況であり,未だ症状固定には至っていない。また,上肢については,現在リハビリテーションによりその機能回復のための治療を施しており,やはり症状固定には至っていない。
(b)本件事故により,原告太郎には,少なくとも両下肢完全麻痺,尿閉の後遺障害が残存したほか,上肢は,C5レベルでの完全麻痺であり,首から上が動くほか,肩関節と肘関節がわずかに動き,これらの関節を使うことにより手指の先を上下方向と左右方向に数㌢㍍ほど緩慢に動かせる程度の機能しか残存していない。現在,原告太郎の上肢機能については巧緻性の向上等に向けたリハビリテーションが行われているが,これが若干回復したとしても,電動車いすの操縦用スティックやパソコンのボール型マウス,各種リモコン装置を手で操作する程度であることが見込まれる。
原告太郎は,上記後遺障害により,立位・歩行不可,両手指・手首の自動運動不可,首から下の知覚障害,勃起不能の状態である。他方,原告太郎は,首から上の機能は比較的保たれており,前記のとおり,頸椎が固定していないため,常時頸部にコルセットを装着した状態ではあるが,意思表示をしたり,マウススティックを操作してパソコンを操作したりすることはできる。また,静止状態であれば,肩関節を使い,肘を車いすの手すりに乗せることにより,上体の姿勢を多少は保つことはできる。
(c)原告太郎は,退院後,平成21年8月までは原告一郎の居宅で生活していたが,同月22日に,同じ敷地内に原告太郎のための別建物が完成した後は,同建物に移って生活をしている。
原告太郎は,朝,家族にベッドから車いすに乗せてもらい,日中は車いすに乗った状態で過ごし,夜8時ころに,ベッドに移してもらって,テレビを見るなどした後就寝する生活をしている。原告太郎の体重は約80㎏であり,ベッドと車いすの移動は,家族が2人いる時は2人で行い,原告花子しかいないときは,原告花子の介助に加え,電動リフトとスリングシートを使って行っている。排尿は,膀胱瘻による排尿管理を行っており,カテーテルによる導尿を要し,介護者が膀胱洗浄やカテーテルや皮膚の消毒等をしたり,2,3時間置きに尿集袋に溜まった尿を捨てたりする必要がある。排便は,介護者が,3日に1度,1時間から1時間半程度かけて,原告太郎の肛門に指を入れて取り出すなどして摘便を行っている。また,入浴は,上記排便日に併せて行っており,介護者がシャワーを使って身体を洗っている。食事は,介護者が原告太郎の口元まで食べ物をもっていってこれを摂食させている。
原告太郎は,衣類脱着,歯磨きについても介護を要するほか,体位の変換,寝返りを打つ等の動作も自力で行うことはできないため,蓐瘡予防のため,車いすに乗った状態であれば,臀部の血行を確保するため一定時間毎に身体を前傾にしてもらって除圧してもらう必要があり,睡眠中であれば,同様に介護者に寝返りを打たせてもらう必要がある。さらに,首から下は汗をかかず,体温調節が困難であることから,身体に熱がこもった場合には,介護者を呼んで,衣類,寝具の調整をしてもらうことがある。
他方,原告太郎は,前記のとおり,首から上の機能は,比較的保たれており,口にくわえたマウススティックでパソコンや携帯電話の操作ができるほか,ボイススキャンにより,エアコンやテレビのリモコンを操作することが可能である。原告太郎が別建物で生活するようになって以降は,原告花子が定期的に決まった時間に原告太郎の様子を見にくるほか,原告太郎が,用事のある時に原告花子を呼んで,用事を頼んでいる。原告花子が夜間に来ることは通常はない。
以上によれば,原告太郎は,生活全般にわたって介護を要する状態であることが認められる。

【判決の趣旨】
介護に必要な設備・機器費用 2,449万462円
(ア) スロープ費用 6万2,000円
原告太郎は,スロープ費用として6万2,000円を負担したことが認められ,前記認定の原告太郎の後遺障害の程度も考えると,上記費用は,本件事故による損害として相当と認められる。
(イ) 自家用車の身体障害者用設備取得費 204万円
原告太郎は,平成19年6月,身体障害者用にリフト等が整備された中古自動車(平成14年車)を204万2,270円で購入したこと,身体障害者仕様でない通常のタイプの同型の中古自動車の時価は150万円であることが認められる。よって,自動車の身体障害者設備の設置に係る費用は,差額54万2,270円と評価できるところ,原告太郎の後遺障害の程度・症状に照らすと,その費用は本件事故による損害と認められる。
原告太郎は,下肢の症状固定時である平成19年1月19日に19歳であったから,その平均余命にかんがみれば将来介護期間は症状固定時から60年を下回らないと考えられる。そして,弁論の全趣旨によれば,前記自動車の耐用年数は10年を下回らないと認められるから,症状固定時から5年後に初回の買換え(新車)を行い,以降は10年毎に5回買換えの必要があると認められる。新車買換えの場合の身体障害者用設備費用は78万円であると認められる。そうすると,自家用車の身体障害者用設備取得費は,平成19年6月の54万2,270円と将来の買換え費用5回分となるところ,損害額は,症状固定時である平成19年1月の現価とするのが相当であるから,ライプニッツ方式(年5%)によって中間利息を控除すると〔ライプニッツ方式(年5%)によって中間利息を控除して症状固定時の現価を損害額とすることは(ウ)ないし(オ),(ク)ないし(サ)も同じ。〕,下記計算式のとおり204万円となる(原告らの主張にかんがみ千円未満切り捨て,(ウ)ないし(オ),(ク)ないし(サ)も同じ。)。
(計算式) 54万2,270+78万×(0.7835+0.481+0.2953+0.1813+0.1113+0.0683)=204万416
(ウ) 介護用電動ベッド,クレーターマットレス,乗り移り用リフト,入浴用車いす 175万6,000円
原告太郎は,平成19年7月19日に,介護用品として,介護用電動ベッド,クレーターマットレス,乗り移り用リフト及び入浴用車いすを購入したこと,介護用電動ベッドは28万3,500円(r市による公費負担を除いた自己負担額12万9,500円),クレーターマットレスは2万6,600円(同公費負担を除いた自己負担額7,000円),乗り移り用リフト(付属品を含む。)は43万3,000円(同公費負担を除いた自己負担額27万4,000円),入浴用車いす(付属品を含む。)は14万6,580円(同公費負担を除いた自己負担額5万6,580円)で,r市による公費負担を除いた自己負担額は,合計46万7,080円であったことが認められ,原告太郎の後遺障害の程度・症状に照らすと,これらの費用は相当因果関係のある損害と認められる。
そして,弁論の全趣旨によれば,これらの介護用品の耐用年数はいずれも10年を下回らないと認められるから,将来介護期間(60年)の間に10年毎に買換えの必要がある。原告太郎は,平成19年に上記介護用品を購入しているから,症状固定時から10年後を初回の買換えとして50年後まで5回買換えの必要がある。
また,将来購入分については,未だ給付されていない公費分を控除するのは相当ではないから,これを控除しない金額である88万9,680円を基礎として損害を算定するのが相当である。
よって,これらの物品の費用を算定すれば,下記計算式のとおり原告太郎の主張額175万6,000円を下らないので,同額を損害と認める。
(計算式) 46万7,080+88万9,680×(0.6139+0.3769+0.2314+0.142+0.0872)=175万8,361
(エ) 書見台 106万4,000円
原告太郎は平成18年9月7日に電動式書見台を42万2,730円で購入したことが認められ,原告太郎の後遺障害の程度・症状に照らすと,これは本件事故と相当因果関係のある損害と認める。弁論の全趣旨によれば,その耐用年数は10年を下回らないと認められるから,将来介護期間(60年)の間に10年毎に買換えの必要がある。原告太郎は,平成18年に上記介護用品を購入しているから,症状固定時から9年後を初回の買換えとして49年後まで5回買換えの必要がある(原告らの主張にかんがみ59年後の買換えは入れないこととする。)。
よって,これらの物品の費用を算定すれば,下記計算式のとおり原告太郎の主張額の106万4,000円を下らないので,同額を損害と認める。
(計算式) 42万2,000+42万2,730×(0.6446+0.3957+0.2429+0.1491+0.0916)=106万6,198
(オ) 情報通信支援用具,スプリント,マウススティック 376万2,000円
原告太郎は,平成19年8月,パソコンやテレビを利用するのに,首を動かして顎や頬でスイッチを操作したり,口にくわえたマウススティックでキーボードを操作する等したりするための情報通信支援用具を13万4,320円で購入したこと,そのうち,r市の公費補助を除いた自己負担額は3万4,320円であったこと,原告太郎は,口でくわえてキーボード等を操作するマウススティックの既製品を6,000円で購入したが,顎関節炎を発症したため,オクルーザルスプリントを用いて顎関節を安定させ,顎関節に負担のかからないマウススティックを製作したこと,これらのスプリントとマウススティックの製作及び装着に伴う費用として90万円を要したことが認められる。上記費用は,本件事故による損害として相当と認められる。よって,原告太郎が,情報支援用具,スプリント及びマウススティックの購入や製作に要した費用は少なくとも94万円になる。弁論の全趣旨によれば,これらの用具の耐用年数は6年を下回らないと認められるから将来介護期間中(60年間)に症状固定時から6年後を初回買換えとして,以降6年毎に9回の買換えが必要である。前記のとおり将来購入分については公費補助による控除はすべきでないから,1回の買換費用は,将来の通信支援用具の取得費13万4,320円とスプリントとマウススティックの取得費は90万円の合計103万4,320円である。
よって,物品の費用を算定すれば,下記計算式のとおり376万2,000円となる。
(計算式) 94万+103万4,320×(0.7462+0.5568+0.4155+0.3101+0.2314+0.1727+0.1288+0.0961+0.0717)=376万2,969
(カ) 家屋新築費用(障害者対応部分) 848万262円
原告太郎の後遺障害の程度・症状に加え,証拠(略)によれば,原告一郎の自宅を原告太郎の介護に対応した仕様に改造することは困難であり,原告太郎の移動,入浴や排泄物処理等の設備を設けるためには,身体障害者用の建物を建築する必要があったこと,前記建物の新築費用のうち,障害者対応とするために健常者用住宅と比較して増額した費用は848万262円であることが認められ,上記費用は本件事故による損害として相当と認められる。
(キ) 家屋新築に伴う外構工事費用のうち障害者対応部分 163万4,200円
原告太郎は,前記障害者仕様の建物の新築に伴い,車いすで外に出るための①ウッドデッキ,②玄関から駐車場までのスロープ,③ウッドデッキから駐車場までのスロープ,④駐車場の舗装,⑤母屋への通路の舗装の外構工事を行い,これらの工事に係る費用として163万4,200円を要したことが認められるところ,前記の原告太郎の後遺障害の程度・症状に照らすと,上記費用は本件事故による損害として相当と認められる。
(ク) 浴室用スリングシート 41万3,000円
原告太郎は,平成21年8月に,原告太郎の入浴のためリフトを使用する際に身体を包むスリングシートを4万5,360円で購入したことが認められるところ,原告太郎の後遺障害の程度・症状に照らすと,上記費用は本件事故による損害として相当と認められる。弁論の全趣旨によれば,この浴室用スリングシートの耐用年数は2年を下回らないと認められるから,将来介護期間(60年)に,症状固定時から4年後を初回買換えとして,以降2年毎に28回の買換えが必要である。また,スリングシートの購入費用は4万5,000円を下らないと考えられる。
よって,浴室用スリングの購入費用は,下記計算式のとおり41万3,000円となる。
(計算式) 4万5,000×(0.9070+0.8227+0.7462+0.6768+0.6139+0.5568+0.5051+0.4581+0.4155+0.3769+0.3418+0.3101+0.2812+0.2551+0.2314+0.2099+0.1904+0.1727+0.1566+0.1420+0.1288+0.1169+0.1060+0.0961+0.0872+0.0791+0.0717+0.0651+0.0590)=41万3,104
(ケ) 音声認識システム(ボイススキャン) 48万7,000円
原告太郎は,平成21年8月に音声認識システムであるボイススキャン一式を14万4,280円(メーカー社員の出張費用を含む。)で購入したこと,これは,音声による指示でエアコンや照明装置等の電気器具の操作を行うことができるものであることが認められ,これらの費用は,本件事故による損害として相当と認める。弁論の全趣旨によれば,ボイススキャンの耐用年数は6年であると認められるから,将来介護期間(60年)に症状固定時から8年後を初回買換えとして,以降6年毎9回の買換えが必要である。ボイススキャンの今後の購入費用は14万4,000円を下らないと考えられる。
よって,ボイススキャンの購入費用は,下記計算式のとおり48万7,000円となる。
(計算式) 14万4,000×(0.9070+0.6768+0.5051+0.3769+0.2812+0.2099+0.1566+0.1169+0.0872+0.0651)=48万7,108
(コ) 手押し式車いす 97万5,000円
原告太郎は,平成20年7月,手押し式車いすを36万6,339円で購入し,そのうちr市の公費負担を除いた自己負担分は2万5,100円であったことが認められるところ,自己負担分は本件事故による損害として相当と認める。そして,弁論の全趣旨によれば,手押し式車いすの耐用年数は6年を下回らないと認められるから,将来介護期間中(60年)に症状固定時から7年後の平成26年を初回買換えとして,以降6年毎9回の買換えが必要である。手押し式車いすの買換費用は,少なくとも36万6,000円を下回らないと考えられる。
よって,手押し式車いすの費用は,下記計算式のとおり,97万5,000円となる。
(計算式) 2万5,100×0.9524+36万6,000×(0.7107+0.5303+0.3957+0.2953+0.2204+0.1644+0.1227+0.0916+0.0683)=97万5,285
(サ) 電動車いす 381万7,000円
電動車いすの取得費用として合計161万9,263円(本体部分が141万8,619円,身体を支えるクッションやヘッドレスト等の部分が20万644円)を要すること,原告太郎の初度(平成22年)購入分についてはr市が全額公費負担することが認められる。原告太郎の後遺障害の程度や症状に照らすと上記取得に係る費用は本件事故による損害として相当であると認められる。弁論の全趣旨によれば,この電動車いすの耐用年数は6年を下回らないと考えられるから,将来介護期間中(60年)に,症状固定時から9年を経過した平成28年を初回買換えとして,以降6年毎9回の買換えが必要である。なお,その際の購入費用は161万9,000円を下らないと考えられる。
よって,電動車いすの費用は,下記計算式のとおり381万7,000円となる。
(計算式) 161万9,000×(0.6446+0.4810+0.3589+0.2678+0.1999+0.1491+0.1113+0.0831+0.062)=381万7,116

【コメント】
脊髄損傷による介護用品に関して主要なものについて概ねカバーしている裁判例です。
それぞれの買替年数=耐用年数は以下のとおりです。電動ベッド,手押し式車いす,については,期間の間隔が長いようにも思われます。つまり,買替の頻度が押さえられています。これは,被害者が若年者であり将来介護期間(60年)の長さが影響しているのでしょうか。

自家用車の身体障害者用設備取得費=10年
介護用電動ベッド(28万3,500円),クレーターマットレス(2万6,600円),乗り移り用リフト(43万3,000円),入浴用車いす(14万6,580円),電動式書見台=10年
情報通信支援用具,スプリント,マウススティック=6年
浴室用スリングシート=2年
音声認識システム(ボイススキャン)=6年
手押し式車いす(36万6,000円)=6年
電動車いす(161万9,263円,備品含めて)=6年

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