個人タクシー運転手について過少申告であることを前提に妻作成のノートに記載された売上金額に基づいて休業損害等の基礎収入を認めた判決です

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個人タクシー運転手(男性)について,妻作成のノートに記載された売上金額は組合の作成したチケット換金明細書等と照合して正確であり,確定申告書の売上金額633万円余は2割ほど過少申告であるが,妻作成のノートの事故前3ヶ月分の売上金額187万円余から,通信費,消耗品費,燃料油脂費合計25万円余を経費として差し引き日額1万8006円を基礎収入とした判決です。

横浜地判平成20年9月4日判決
自動車保険ジャーナル・第1757号(平成20年11月6日掲載)

 

【事案の概要】   (クリックすると回答)


原告は,確定申告書では,平成18年12月の売上を61万1,970円と申告しているが,これは過少申告したものであって,実際の売上は前記のとおりであり,損害賠償請求における休業損害は,実際の収入に基づいて算定されるべきである。
原告の妻は,原告が個人タクシーを開業して以来,原告の毎日の業務終了後,運行日報をもとに現金分とチケット分を区別して売上を記録してきたものであって,その信用性は高い。
休業によって変動する経費としては,通信費,消耗品費,燃料油脂費があり,これらを控除した3か月分の純益は,162万0,629円となり,平成18年12月から平成19年2月までの合計日数90日で除すれば,原告の1日当たりの収益は1万8,006円である。

【判決の趣旨】  (クリックすると回答)


原告は,毎日の業務が終わった後,運行日報を妻に渡し,妻が,売上額を,現金収入分とチケット収入分に分けてノートに記載していた。
これによれば,原告の本件事故前の3か月分の売上の合計は187万6,470円となる。

原告は,客からタクシーチケットを受け取ったり,クレジットカードでの支払を受けた場合には,個人タクシー協同組合で換金しており,同組合は,原告に対し,チケット換金明細書を交付している。

このチケット換金明細書や同組合作成の組合員別チケット換金明細と原告の妻が運行日報をもとに作成した売上を記載したノートを対照すれば,ノートに記載されているチケット収入分は正確に記載されていることが認められる。
そして,現金収入分についても,売上を記載したノートには,本件事故後に休業損害を請求するために改ざんしたり,虚偽の記載をしたなどの事実をうかがわせるような点はなく,毎日の業務が終わった後に運行日報をもとに作成されたものと認められるから,これについても正確に記載されているものと認めることができる。

他方,原告が,確定申告に際し,売上を実際よりも過少に申告し,納税額の基礎となる所得金額を減額させたものと認められる。
原告が,適正に税務申告をしておらず,また,修正申告をすべきところ,これもしていないという事実は,売上についての原告の立証につき,その信用性を慎重に検討すべきことを要請するものではあるが,本件では,前記のとおり,原告主張のとおりの売上があったものと認めることができる。
よって,原告の3か月分の純益は,162万0,629円(187万6,470円-25万5,841円=162万0,629円)となる。
そして,これを,平成18年12月から平成19年2月までの合計日数90日で除すれば,原告の1日当たりの収益は1万8,006円となる。

【コメント】  (クリックすると回答)


一般に,事業所得者の基礎収入に関しては,事故前の申告所得額を採用し,いわゆる固定経費を支出していれば,これを加算するというのが裁判所の基本的な考え方です(八木・佐久間 交通損害関係訴訟 青林書院 P141)。

したがって,賠償側である被告の「裁判所も税務署も同じ国家機関であり,原告が国家機関に対して別々の収入を主張していることは,それ自体,原告の収入金額についての訴訟上の主張の信用性を大きく減殺しているものといわざるを得ない。」との主張は,一般論としては頷けるものです。

しかし,過少申告であっても,それを上回るような実収入がある場合には,それが事実であるとの証明がなされていれば,それを基礎収入とする余地があると言えます。

本件判決では,被害者である原告が過少申告をしていた事実を裁判所は認めて,その上で,その申告額によらずに基礎収入額を原告の主張とおりに認定しています。
その決め手になったのは,夫の個人タクシーを支えていた妻のノートでした。まさしく内助の功と言うべき事案です。

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