事故後にアルツハイマー型認知症を発症した高齢者に関して,事故との因果関係が問題となった判決です。事故が二次的要因としたものです。

[アルツハイマー,入院,因果関係,慰謝料,素因減額,認知症,高齢者,1級]

アルツハイマー型認知症と事故との直接的な因果関係はないが,長期の入院加療により二次的に引き起こされた事が考えられるとして,死亡時までの損害を認めました。
神戸地裁 平成13年8月8日判決
平成11年(ワ)第1788号 損害賠償請求事件
<出典> 交民集34巻4号1019頁

【事案の概要】
被害者(当時81歳男性)が衝突事故に遭い,アルツハイマー型認知症を発症し,事故から約3年7か月後に肺炎で死亡した事案です。
判決は,アルツハイマー型認知症と事故との直接的な因果関係はないが,長期の入院加療により二次的に引き起こされた事が考えられること等から,死亡時までの損害を認めたものです。
また,判決では交通事故によりアルツハイマー型認知が発症するとは限らないことなどを考慮し,損害の公平な分担の見地から,被害者に生じた全損害のうち8割を加害者負担としました。2割は被害者負担と言うことです。
さらに,症状固定まで518日間入院をすることになったため入院慰謝料400万円,アルツハイマー認知症で1級3号となったことから2600万円の後遺障害慰謝料が認められました。



【判決の趣旨】

本件でも,同疾患と交通事故との直接の因果関係はないが,被害者につき,交通事故により入院生活を強いられたことが同疾患の発症に大きく関与したと言わざるを得ないと考えていること,脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症とは合併の関係にあり,外傷による硬膜下血腫あるいは器質性脳障害は脳血管性認知症の直接原因と考えられるし,その後の身体的治療のためやむを得ず長期の入院加療を要したことが2次的にアルツハイマー型認知症を引き起こしたと考えていることが,それぞれ認められる。
他方,被害者遺族作成の陳述書によれば,本件事故より受傷して入院するまでは被害者につき特段認知症の症状が出ていなかったことが認められ,これを覆すに足りる証拠はない。

 これらを総合すれば,被害者の認知症については,本件事故が大きく寄与していると言わざるを得ないものである。ただし,被害者は本件事故当時81歳であったこと,交通事故によりアルツハイマー型認知症が発症するとは限らないであろうことなどを考慮し,損害の公平な分担の見地から,被害者に生じた全損害のうち8割を加害者に負担させることとする。


【コメント】
本件は,事故後にアルツハイマー型認知症を発症して,後遺障害1級3号(認知症)となり,事故から約3年7か月後に肺炎で死亡した事案です。但し,死亡と事故とは因果関係はありません。アルツハイマー型認知症は外傷性ではないために,その発症と事故との因果関係があるかどうかが争われました。加害者側は,因果関係がないかあったとしてもわずかであると主張しました。判決は,長期の入院加療を要したことが2次的にアルツハイマー型認知症を引き起こしたとしてアルツハイマー型認知症の発症の点は説明をしています。

しかし,この判決は,被害者の認知症は脳血管性,脳器質性とアルツハイマー型認知症を合併していたと医師から診断される形態のもので単純にアルツハイマー型認知症のみではなかったものです。
判決も「外傷による硬膜下血腫あるいは器質性脳障害は脳血管性認知症の直接原因と考えられる」と述べて,事故による脳血管性認知症の発症の可能性も認めている事案でした。従って,純然たるアルツハイマー型認知症のみの場合に同じ結論を出したかどうかは不明です。あるいは本件では,「素因減額」2割としたものを純然たるアルツハイマー型認知症のみであれば,もう少し減額割合を増やしたのでしょうか。

交通事故における賠償や過失判例をご覧いただき、さらなる疑問にも弁護士として明確にお応えいたします。お気軽にご相談ください。

0120-56-0075 受付時間:月~金(土日祝日も対応)午前9時30分~午後10時

フォームからのご相談予約はこちら

ページの先頭へ戻る