最高裁平成8年10月29日後縦靱帯骨化症(OPLL)判決以降の脊柱管狭窄による素因減額率の傾向はどうですか。11の判決例について

[既存障害,既往症,素因減額,脊柱管狭窄]


最高裁第3小法廷平成8年10月29日いわゆる後縦靱帯骨化症(OPLL)判決(交通事故民事裁判例集29巻5号1272頁は,頸椎後縦靭帯骨化症の症状が発現していなかった事案についても,民法722条2項を類推適用して,損害の額を定めるにあたり,同疾患を斟酌すべきであるとした事案である。)以降の
脊柱管狭窄を理由に素因減額を認めた判決です。
最高裁OPLL判決と下級審判決の対応関係が一定認められます。

( )内は,減額率です。減額率の大きい順番に並べてあります。

標準(ことばが適切かは分かりませんが)としては,30%

そして,既存障害あるいは症状が既に出現していたならば50~70%となります。
その場合には,事故の程度との比較も重視されます。

これに対して,脊柱管狭窄程度が事故がなくとも発症に至るものか不明な場合で,事故の程度も軽微と言えないならば,20%,あるいは,10%となると言えます。

1 大きな減額(70%,60%,50%)   (クリックすると回答)


減額(70%)=既存障害頚部の「局部に頑固な神経症状を残すもの」12級に加えて頚椎症治療での入院歴。また,物損軽微
津地裁熊野支部 平成16年6月10日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1576号

前件の交通事故で頸椎を負傷し,「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害等級第12級の認定を受けている。
前件の交通事故後,今回の交通事故以前に撮られたMRI画像やレントゲン画像によれば,本件事故以前から脊柱管の狭窄等が認められていた

減額(60%)=発症してもおかしくない程度の脊柱管狭窄。事故程度軽微
大阪地裁 平成14年12月25日判決 
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1512号

本件事故自体は軽微で重大なものではなく,
原告の障害内容は,元々原告が有していて無症状のまま経緯してきた脊柱管狭窄状態に,本件事故による外力が加わって神経症状が発現した

減額(50%)=既に症状出現
大阪地裁 平成13年10月17日判決
<出典> 交民集34巻5号1403頁

頸椎後縦靭帯骨化症は,現に症状の発現がみられていること,
脊柱管の狭窄率は50%を超えるもので,脊髄を相当圧迫する程度であり,それほど重くない外傷によっても大きな神経症状を引き起こす可能性が非常に高い状態にあったこと,

2 平均的な減額(30%)  (クリックすると回答)


減額(30%)
①東京地裁 平成13年4月24日判決
<出典>自動車保険ジャーナル・第1405号

本件交通事故がなくても日常生活もしくは受傷の機会により同様の症状が発生した可能性があることなどが認められる。
しかし,これまで,脊柱管狭窄症,後縦靱帯骨化症の治療を受けたことはなく,かかる病態による症状が発現したこともないことが認められる。
また,事故前に罹患していた脊柱管狭窄症,後縦靱帯骨化症の程度についても,本件全証拠によっても明らかではない。

②名古屋地裁 平成15年1月17日判決
<出典> 交民集36巻1号49頁

本件事故以前から頸椎脊柱管狭窄症の既往があったことから頸椎等に衝撃を受けると障害が生ずる身体的素因があったところ,
本件事故により頸椎に不意の外力が加わり,前記の頸髄症又は神経症状が出現し,その結果,併合3級に該当する後遺障害を受けたと考えるのが相当である。

一方,本件事故以前には,その症状が出現することもなく日常生活を送っていたのであり,原告が本件事故に遭わなかった場合,将来的に原告の脊柱管狭窄にともなう症状が出現したと言えるか否か明らかでないことを併せて考慮する。

③東京地裁 平成16年12月8日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1589号

このように本件事故の規模が小さいにもかかわらず,後遺障害等級併合6級にあたる後遺障害が残ったことからすると,本件事故前から脊柱管狭窄にあったことが影響しているといわざるをえない。

もっとも,一方で,本件事故当時,鳶杭打ち鍛冶工として,主に鉄道関係の現場でクレーン等の操作に従事していたところ,脊柱管狭窄に伴う症状が発現し,治療を受けていたなどの事情は認められない。

④大阪地裁 平成18年9月25日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1702号

第4ないし第6頸椎に狭小化がみられ,J病院の担当医師からも,以前からの脊柱管狭窄に外力が加わって障害を起こしていると指摘されていることに鑑みれば,原告の左上肢麻痺の症状には,本件事故の時点で既に脊柱管が狭窄していた状態であったことが影響していると認められる。

3 小さい減額(20%,10%)  (クリックすると回答)


減額(20%)=発育性脊柱管狭窄。事故が軽微ではない。
①大阪地裁 平成19年7月26日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1721号

原告の症状は,加齢によるものと異なり,明らかな発育性脊柱管狭窄である。

このように,発育性脊柱管狭窄の状態にあると,頸椎伸展時には脊柱管が更に狭小となってしまい,骨折や脱臼を伴わなくとも頸椎の過伸展が強制され,重篤な脊髄麻痺を発症する。
原告が自覚症状を覚えていなくとも,何らかの潜在的な症状発現があったか,少なくとも症状発現の臨界点に近い状態であったと思われる。

発育性脊柱管狭窄は発育性奇形と解され,加齢による変性と位置づけを異にすると捉えられていることを踏まえると,先に説示したとおり,本件において,同原告の重篤な症状の発生について発育性脊柱管狭窄の寄与が認められる以上,素因としてこれを斟酌すべきことは明らかである。

一方で,本件事故の態様,すなわち,前記に各認定のとおり,本件は毎時40㌔㍍の速度で直進する原動機付自転車が毎時30㌔㍍の速度で右折する四輪車と出会い頭に衝突した事案であり,同原告において,頸部ないしその周辺部に脱臼や骨折等の明らかな骨傷を負った訳ではないが(証拠略),衝突により5.0㍍先の路上に跳ね飛ばされるなど,本件事故による衝撃もそれなりに強度であったと推認されることをも斟酌し,20%を素因減額することとする。

②減額(20%)=狭窄程度が軽微。車両の損傷程度が比較的大きい
東京地裁 平成19年12月20日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1743号

素因の影響する割合については,原告主張の人損のほとんどが頸髄不全損傷に関連していること,
他方,原告の脊柱管狭窄の程度が極めて軽微なものであったこと,本件事故状況は前記のとおりであるところ,原告車両が被告車両と衝突後コンクリートの柱やブロック付近にも衝突しており,原告車両の損傷程度が比較的大きいこと(証拠略)
等を総合的に考慮すると,素因減額の割合は,原告に生じた人損につき2割とするのが相当である。

③名古屋地裁 平成19年5月30日判決
<出典> 交民集40巻3号741頁

脊柱管狭窄という素因を有しており,尾骨部痛に影響を与えている可能性があり,前記のとおり腰部痛については労働能力喪失で考慮されていないことも併せ考えると,素因減額としては2割を控除するのが相当である。



減額(10%)=既往症があるが,影響が小さい。
東京地裁 平成17年7月27日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1616号

事故による程度に比して,症状が重篤化したのは,その疾患である脊柱管狭窄症が寄与しているためであると考えられる。
ただし,原告には本件事故前に脊椎症状がなく,事故によって,症状が発現したといえるところ,山崎意見書においても,狭窄の程度等が具体的に指摘されておらず,「事故前から痛みなどがでないレベルの既存障害」の可能性が高いとされているにすぎないことからすれば,脊柱管狭窄症の既往症があるといえるとしても,加齢性の変性とどれほどの違いがあるのか明かでなく,既往症の影響はそれほど大きいものとは評価できない。
したがって,原告の損害額について,同原告の素因により10%減額するのが相当である。

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