Q.線維筋痛症また慢性広範痛症とは何ですか。交通事故によってなりますか。後遺障害になりますか。

[外傷性,慢性広範痛症,疼痛,素因減額,線維筋痛症]

A.

3ヶ月以上の広範囲にわたる疼痛です。
診断基準によれば圧痛点の数により線維筋痛症と慢性広範痛症とは鑑別されます。
原因においては,不明な点も多く心因的な要素によるとの医学的関係もあり,診断された場合にも自賠責での後遺障害は難しく,訴訟においても認定去ることは困難が予想されます。

1 線維筋痛症と慢性広範痛症とは何か (クリックすると回答)

アメリカリウマチ学会の診断基準(1990年)によれば,
(1)3ヶ月以上の広範囲にわたる疼痛の病歴(2)18カ所の圧痛点のうち11カ所以上に疼痛を認めるものが線維筋痛症(fibromyalgia:FM)とされています。なお,(1)(2)の詳細は,5を参照にして下さい。

そして,慢性広範痛症とは,線維筋痛症の(1)3ヶ月以上の広範囲にわたる疼痛の病歴を充たすものの,(2)18カ所の圧痛点のうち11カ所以上に疼痛を認めるものに足りないものを意味するとされています。
つまり,(2)の疼痛を認める圧痛点が10カ所以下のものをいうことになります。

2 問題の難しさとは (クリックすると回答)

疼痛,しかも慢性化しているものについて,医学的にも原因を明らかにすることは難しいとされています。
特に,線維筋痛症及び慢性広範痛症に関しては,精神的疾患である身体表現性障害との鑑別が難しい,あるいは合併が指摘されています。
さらに,慢性疲労性症候群との類似性も言われています。
その上で,脊髄疾患との鑑別も難しく,不要な手術による医療過誤を原因とする発症も指摘されています。
したがって,医学的に線維筋痛症あるいは慢性広範痛症であると確定診断がされることが難しい上に,交通事故との因果関係が,どのように証明すべきかが問題を難しくしています。

3 裁判例はどうか (クリックすると回答)

(1)山口地裁岩国支部 平成18年10月13日判決(肯定,但し素因減額75%)
頚椎捻挫から線維筋痛症を発症したと認めて労働能力喪失率30%(9級と10級の間)を認めたものの,事故による寄与は25%としたものです。

(2)京都地裁 平成22年12月2日判決(肯定)
骨盤骨折等から線維筋痛症を発症したと認めて7級4号に相当するとしたものです。

(3)横浜地裁 平成24年2月28日判決(線維筋痛症としては否定,慢性広範痛症として肯定)
頚椎捻挫から慢性広範痛症を発症したと認めて7級4号に相当するとしたものです。

(4)横浜地裁 平成24年7月3日判決(否定)
頚椎捻挫,腰椎捻挫から線維筋痛症を発症したとの請求については,医師の診断が信用できないとして否定して請求を棄却したものです。

(5)東京地裁 平成24年9月13日判決(否定)
線維筋痛症とされる疼痛が外傷性であるかは明らかではなく,被害者としての感情による影響もあるとして否定したものです。

4 横浜地裁 平成24年2月28日判決(線維筋痛症としては否定,慢性広範痛症として肯定)について (クリックすると回答)

「左右半身、上半身、下半身及び体幹部に3ヶ月以上の疼痛があり、本件診断基準にいう圧痛点が4箇所認められること」から、線維筋痛症の不完全型あるいは軽症の状態である「慢性広範痛症」に罹患していると診断されているという担当医の診断を尊重し,かつ1での診断基準に従っています。

交通事故との因果関係については,
「本件事故前後を通じて、本件事故以外に、原告が慢性広範痛症の要因となり得る事実は認められない。特に、原告の痛みは一時期に劇的に増したというものではなく、徐々に拡大していったというものであるから、本件事故後の事由が要因とは考え難い。
以上を総合すると、線維筋痛症及び慢性広範痛症は、特別な事態がなくても発症する可能性があるものの、そのことを考慮しても、原告の慢性広範痛症の要因は、本件事故以外には考えがたく、他に要因となり得る事情があると認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告の慢性広範痛症と本件事故との間には因果関係が認められる。」
というものです。
この事例は,受傷直後から激痛が生じており,その後も続いて就労に大きな影響がありました。医師に慢性広範痛症との診断がなされたのは受傷から2年以上経ってからと言う面について,裁判所は被害者の不利には解釈しなかったと言うことです。

控訴審(東京高裁)での判断及び結果については不明ですが,注目されます。

5 アメリカリウマチ学会1990年診断基準の詳細は (クリックすると回答)

(1)3ヶ月以上の広範囲にわたる疼痛の病歴
定義:広範囲とは右・左半身、上・下半身、体軸部(頸椎、前胸部、胸椎、腰椎)

(2)18カ所の圧痛点のうち11カ所以上に疼痛を認めるもの
・後頭部 (後頭下筋腱付着部)
・下部頸椎 (C5-7頸椎間前方)
・僧帽筋 (上縁中央部)
・棘上筋
(起始部で肩甲骨棘部の上)
・第2肋骨( 肋軟骨接合部)
・肘外側上顆 (上顆2cm遠位)
・臀 部 (4半上外側部)
・大転子 (転子突起後部)
・膝 (上方内側脂肪堆積部)

☆なお,この基準に対して医学界では批判もあり,診断基準については確立しておらず,途上にあるようです。

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