Q.高齢の家事従事者(主婦,主夫)の死亡逸失利益における基礎収入及び生活費控除率はどのようになりますか。

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A.

基礎収入については,家事従事者については当然ながら賃金センサスによりますが,年齢別あるいは全年齢いずれなのかという論点があります。
傾向とすると,年齢別が多いとは言えます。

さらに高齢者と言うことで満額ではなく,多くが平均賃金から一定割合減額する方法となっています。
減額割合として50%と言うもが多いという傾向ですが,それを超えて認められることもあります。
なお,一般的な家事だけではなく介護も行っていた場合には,基礎収入が高めになる傾向があると言えます。

生活費控除率については高齢者であるからと言って特に変化はありませんが,兼業か専業か,兼業の場合には何歳くらいまで続けることができたかどうかと言う点も考慮されているとも言えます。

1 基礎収入に関してどのような問題点がありますか。   (クリックすると回答)


高齢者,特に女性の場合には家事従事者が多いと思われます。
しかし,家事従事者には専業者のみならず兼業者も含まれています。

基礎収入については,家事従事者については当然ながら賃金センサスによりますが,年齢別あるいは全年齢いずれなのかという論点があります。
さらに高齢者と言うことで満額ではなく,多くが平均賃金から一定割合減額する方法となっています。
また,専業か兼業かによる大きな違いは,一応ないと言えそうです。

2 基礎収入について裁判例は,どのような流れですか。  (クリックすると回答)


(1)賃金センサス女性年齢別によるものが裁判例の主流と言えますが,全年齢によるものも例あります。

(2)基礎収入に関して全年齢平均を採用しているものは,「平成16年賃金センサスでは,女子労働者学歴計60歳~64歳の平均年収よりも,65歳以上の平均年収の方がむしろ高くなっている。」(判決例⑧)という前提があります。
そのために,65歳以上の平均年収ではなく,全年齢の割合的認定とすると言うことです。しかし,年齢構造あるいは高齢者の働き場所の急激な変化によるものでしょうか。
60歳~64歳に比べて65歳以上の平均年収の方が高いという傾向には変化があり,賃金センサスを見る限りでは平成19年以降は逆転をしています。

(3)減額割合については,50%というのが65歳以上の年齢別平均とのセットで⑦東京地裁平成18年10月16日判決まで主流と言える傾向がありました。しかし,前記の⑧以降は,様々な割合が見られ,中には100%とするものまであります。

3 平成20年代になって介護をする場合も増加していますが,影響はありますか。  (クリックすると回答)


基礎収入として平均賃金あるいはそれに近い金額を認める傾向は,平成20年代になってから多くあるように思われます。
それらについては,年齢で画一的に判断することから,家事労働の実態を裁判所としても把握することに努めており,とりわけ家族の介護も行っていた場合には賠償額に反映させることの表れではないかと考えます。
判決例⑩から⑬が,そのような事例です。

4 兼業家事従事者の基礎収入はどのような流れですか。  (クリックすると回答)


減額割合から見ると専業者よりも結果的には高めのように思われます。
女子全年齢の80%と基礎収入としては,極めて高めなものもあります。

5 生活費控除率については,どのような流れでしょうか。  (クリックすると回答)


(1)30%あるいは40%とするのが,主流で中には50%もあります。

(2)30%と40%の違いについて
一般に死亡逸失利益に関し損益相殺の一つとして,生活費を控除することろ,その控除率については,女性に関して一家の支柱の場合を除いて一般に30%とされております。
そこで,30%とした事例に関しては原則通りと言えます。

40%とするのは,端的に傾向として80歳代(直前の79歳も含めて)であると言うことが理由と考えられます。

(3)50%としている場合もあります。
この場合には,家事従事の実態について考慮していると推察されます。

6 喪失期間についてはどうでしょうか。 (クリックすると回答)


平均余命の2分の1とする原則通りが主流と言えます。
兼業の場合には,兼業する仕事内容で両立ができた蓋然性が乏しいと判断をされたとも言えます。

7   判決例一覧(クリックすると表示)


①〈兼業家事従事者〉
東京地裁判決 平成6年7月15日 交民27・4・932
賃金センサス女性学歴計65歳以上の80%
77歳女子(農業兼家事従事者)
生活費控除率30% 喪失期間4年間(平均余命の2分の1=5年間よりも短い)

②〈専業家事従事者〉
大阪地裁判決 平成8年1月18日 交民29・1・44
賃金センサス女性65歳以上の50%
85歳女子家事従事者
生活費控除率40%喪失期間3年間(平均余命の2分の1)

③〈専業家事従事者〉
神戸地裁判決 平成8年4月10日 交民29・3・765
賃金センサス女性65歳以上の50%
86歳女子家事従事者
生活費控除率40%,喪失期間2年間(平均余命の2分の1)

④〈専業家事従事者〉
大阪地裁判決 平成8年6月20日交民29・3・911
賃金センサス女性65歳以上の50%
79歳女子家事従事者
生活費控除率40%,喪失期間5年間(平均余命の2分の1)

⑤〈専業家事従事者〉
東京地裁判決 平成10年3月24日 交民31・2・423
賃金センサス女性全年齢の50%
83歳女子家事従事者
生活費控除率40%,喪失期間4年間(平均余命の2分の1)

⑥〈兼業家事従事者〉
東京地裁判決 平成17年2月23日 自保ジャーナル・1600
賃金センサス女子労働者学歴計65歳以上平均の70%
71歳女子(兼業主婦)
生活費控除率30%,喪失期間8年間(平均余命17年の約2分の1)

⑦〈専業家事従事者〉
東京地裁判決 平成18年10月16日 自保ジャーナル・1675
賃金センサス女子労働者学歴計65歳以上平均の50%
75歳女子(息子夫婦と同居し家事や野菜作りをする)
生活費50%控除,喪失期間5年間(80歳まで,平均余命の2分の1以下)

⑧〈専業家事従事者〉
横浜地裁判決 平成21年2月19日 自保ジャーナル・1790
賃金センサス女子全年齢平均年収の70%
75歳女子(夫を看病する専業主婦)
生活費控除率30%,喪失期間7年間(平均余命の2分の1)

⑨〈専業家事従事者〉
神戸地裁判決 平成21年2月23日 交民42・1・213
賃金センサス学歴計女子65歳以上平均の100%
80歳女子(家事従事者)
生活費控除率40%,喪失期間5年間(平均余命の2分の1)

⑩〈専業家事従事者〉
横浜地裁判決 平成21年7月2日 自保ジャーナル・1798
賃金センサス女性労働者女子全年齢平均(343万4,400円)の100%
82歳男子(パーキンソン病の妻を介護しながらの家事従事者)
生活費30%控除,喪失期間(平均余命の2分の1)

⑪〈専業家事従事者〉
名古屋地裁判決 平成22年3月12日 自保ジャーナル・1841
賃金センサス学歴計女子65歳以上平均の70%
83歳女子(長男と2人暮らし,勤務する長男と家事分担)
生活費控除率40%,喪失期間5年間(平均余命の2分の1)

⑫〈専業家事従事者〉
東京地裁 平成22年10月12日判決 自保ジャーナル・1843
賃金センサス65歳以上の80%
83歳女子(家事従事者として全員就労の息子一家と同居)
生活費控除率50%,喪失期間5年間(平均余命の約2分の1)

⑬〈兼業家事従事者〉
千葉地裁判決 平成23年7月11日 自保ジャーナル・1855賃金センサス(産業計・企業規模計・女・学歴計)346万8,800円の80%75歳女子(主婦及び不動産所得)生活費控除率30%,喪失期間8年間(平均余命の約2分の1)

⑭〈専業家事従事者〉
千葉地裁判決 平成23年7月25日 自保ジャーナル・1866
賃金センサス女子学歴計70歳以上の80%
80歳女子(家事労働全般と身体障害者の夫を介護)
生活費控除率40%,喪失期間4年間(平均余命の約2分の1)

⑮〈専業家事従事者〉
名古屋地裁判決 平成23年12月21日 自保ジャーナル・1869
賃金センサス女子全年齢平均及び女性学歴計65歳以上の平均年収100%を段階的
65歳女子(専業主婦,夫との二人暮らし)
生活費控除率30%,喪失期間12年間,但し3年間は全年齢平均・9年間は65歳以上の平均

⑯〈専業家事従事者〉
横浜地裁判決 平成24年11月15日 自保ジャーナル・1887
賃金センサス女子学歴計全年齢平均(345万9,400円)の50%
81歳女子(家事従事者=同居の孫に対する)
生活費控除率30%,喪失期間5年間(平均余命の2分の1)

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