Q.呼吸器の障害は,どのようにして発生しますか。後遺障害(後遺症)認定方法と等級はどのようになっていますか。

[スパイロメトリー,介護,動脈血,呼吸困難,後遺症,,肺活量,運動負荷試験]

A.

呼吸機能の障害は,原則を採血による動脈血酸素分圧・動脈炭酸ガス分圧の測定によります。
それは,肺機能におけるガス交換(酸素と炭酸ガス)による濃度の測定によるものです。
その他にもスパイロメトリー等の方法があります。

等級としては,1~3級,5級,7級,9級,11級となります。1~3級は,介護の要否と常時・随時で分かれます。

1 呼吸器とは何ですか。(クリックすると回答)


肺が主な臓器ですが,肺に至るまでの気道部を含めます。
気道部とは,気管,気管支等です。

2 呼吸器の後遺障害(後遺症)は,自覚症状だけでいいのでしょうか。(クリックすると回答)


呼吸機能の障害であり,その障害が労災基準で定める検査方法により他覚的に証明されて,一定水準まで障害されているものをいいます。

呼吸器の障害は外傷性肺挫傷等で考えられます。詳細は,次の記事をご覧下さい。

外傷性肺挫傷となるとどうなるのでしょうか。---交通事故賠償は,むさしの森法律事務所(リンク)

3 その検査方法にはどのようなものがありますか。(クリックすると回答)


以下の検査方法により後遺障害(後遺症)の有無及び程度が判定されます。
ア 動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果
イ スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度による判定
ウ 運動負荷試験の結果による判定

原則としてアにより判定された等級に認定する。
ただし,アにより判定された等級がイ又はウにより判定された等級より低い場合にはイ又はウにより判定された等級による。
なお,アにより判定された等級が3級以上に該当する場合には,イ又はウによる判定を行う必要がない。

4 動脈血ガス分析とは何ですか。(クリックすると回答)


動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査は動脈血のガス分析により行います。
つまり,採血により得られた動脈血を自動分析装置にかけて行います。

血液中の酸素や炭酸ガスなどの濃度を動脈血ガス分析で調べることによって,肺機能の障害の有無・程度が分かるのです。
分圧というのは,空気全体の中での酸素なら酸素の占める圧力のことです。

動脈血ガス交換における医療上の基準値としては,
PaO2(酸素分圧)...80~100mmHg(労災基準基準では70Torr超)

PaCO2(二酸化炭素分圧)...35~45mmHg(労災基準基準では限界値範囲は37~43Torr)

そして,動脈の中の酸素分圧(PaO2)が60mmHg以下になった状態,あるいは二酸化炭素分圧(PaCO2)が45mmHg以上になった状態を呼吸不全といいます。

後遺障害認定基準としてはmmHg=Torrと読みかえても問題はないとされているようです。
また,1mmHgとは,1mmの水銀柱で支えることができる力と言うことです。

5 スパイロメトリーとは何ですか。(クリックすると回答)


スパイロメトリーとは口から出入りする空気の量を時間記録することにより,肺活量,一秒量,一秒率を測定するもので,肺機能検査の最も基本となるものとされています。
スパイロメトリーにより得られる記録をスパイログラム,測定器械をスパイロメータと言います。

労災基準では,%一秒量又は%肺活量の数値に基づくものです。

%一秒量とは一秒間の実測換気量(=一秒量)の予測肺活量に占める百分率(%)を言います。

%肺活量(ぱーせんとはいかつりょう)とは,計算によって求められた予測肺活量に対する実測肺活量の割合です。
つまり,年齢や身長,性別から予測肺活量を計算した上で肺活量測定を行い実際の肺の容量を測定します。
計算式は以下のようになります。
%肺活量(%) = 実測肺活量 ÷ 予測肺活量 × 100

6 呼吸困難の程度とは,どういうことですか。(クリックすると回答)


高度・中等度・軽度に区分されます。

高度=呼吸困難のため,連続しておおむね100m以上歩けないもの

中等度=呼吸困難のため,平地でさえ健常者と同様には歩けないが,自分ペースでなら,1km程度の歩行が可能であるもの

軽度=呼吸困難のため,健常者と同様には階段の昇降ができないもの

なお,高度・中等度・軽度の区分と5でのスパイロメトリーによる検査結果とを組み合わせて等級が認定されます。

7 運動負荷試験とは何ですか。 (クリックすると回答)


ア 動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果
あるいは,
イ スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度による判定による検査結果
には該当しなくとも呼吸機能低下による呼吸困難が認められ,運動負荷試験の結果から明らかに呼吸機能に障害がある場合は,11級に認定されます。

運動負荷試験とは,最も一般的な2つの形式は,6分間歩行テストと完全な心肺運動負荷試験です。
しかし,心肺運動負荷試験でなければ認定は難しいと思われます。

心肺運動負荷試験(CPET):
運動試験はトレッドミルまたは自転車エルゴメーターにて実施されます。
その結果,安静時および運動実施時の呼吸ガス交換についてのbreath-by-breath法による分析が得られます。
気流,O2消費,CO2生成,および心拍数に関する情報が収集されるとともに他の項目の算出に利用されます。

8  呼吸器の後遺障害等級は検査方法との関係で,どのようになっていますか。(クリックすると回答)


原則として
(1)動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による判定により行われます。
この判定で3級以上であれば,これで認定されます。

(2)5級以下であってスパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度による判定が可能であれば,それによる判定を行います。

(2)で(1)による判定よりも高い等級が出れば,その高い方の等級で認定されます。
例えば(1)では9級だが,(2)で7級ならば,7級になります。

(3)運動負荷試験の結果による判定は,(1)(2)ともに非該当であった場合の最終手段というべきものです。

まとめると,

ア 動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果酸素分圧と炭酸ガス分圧の組み合わせによって,1~3級,5級,7級,9級,11級となります。
1~3級は,介護の要否と常時・随時で分かれます。

イ スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度による判定スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度による組み合わせによって,1~3級,7級,11級となります。
(5級,9級はありません。)1~3級は,介護の要否と常時・随時で分かれます。

ウ 運動負荷試験の結果による判定呼吸機能の障害が認められたならば11級

9  呼吸器の後遺障害等級は,検査数値との関係ではどのように格付けされていますか。(クリックすると回答)


呼吸機能に障害を残したものの障害等級は,原則として(1)により判定された等級で認定されます。

ただし,その等級よりも(2)または(3)により判定された等級が高い場合には,(2)または(3)により判定された等級により認定されます。
なお,(1)により判定された等級が3級以上に該当する場合には,(2)または(3)により判定する必要はありません。

なお,呼吸困難の程度でいう高度・中等度・軽度の区分については,「6 呼吸困難の程度とは,どういうことですか。」をお読み下さい。

(1) 動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による判定

ア 動脈血酸素分圧が50Torr以下のもの
(ア)呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの→1級
(イ)呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの→2級
(ウ)上記のいずれにも該当しないもの     →3級

イ 動脈血酸素分圧が50Torrを超え60Torr以下のもの
(ア)動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37Torr以上43Torr以下を言います。以下,これを限界値範囲と言います。)にないものであり,それに加えて呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの→1級
(イ)動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないものであり,それに加えて呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの→2級
(ウ)動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないものですが,上記のいずれにも該当しないもの→3級
(エ)上記の(ア)(イ)(ウ)に該当しないもの(=動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲であり,呼吸機能の低下により介護を必要としないもの)→5級

ウ 動脈血酸素分圧が60Torrを超え70Torr以下のもの
(ア)動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもの  →7級
(イ)上記に該当しないもの(=限界値範囲にあるもの)→9級

エ 動脈血酸素分圧が70Torrを超えるもの
動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもの  →11級
(→限界値範囲にあるものは非該当)

(2)スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度による判定
なお,前提としてスパイロメトリーを適切に行うことができない場合にはこれによる判定は行わないとされています。

ア %1秒量が35以下または%肺活量が40以下であるもの
(ア)高度の呼吸困難が認められ,それに加えて呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの→1級
(イ)高度の呼吸困難が認められ,それに加えて呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの→2級

(ウ)高度の呼吸困難が認められるが,介護が必要ではないもの→3級

(エ)中等度の呼吸困難が認められるもの→7級

(オ)軽度の呼吸困難が認められるもの→11級

イ %1秒量が35を超え55以下または%肺活量が40を超え60以下であるもの
(ア)高度または中等度の呼吸困難が認められるもの→7級
(イ)軽度の呼吸困難が認められるもの→11級

ウ %1秒量が55を超え70以下または%肺活量が60を超え80以下であるもの
高度,中等度または軽度の呼吸困難が認められるもの→11級

(3)運動負荷試験の結果による判定
(1)及び(2)による判定では障害等級には該当しないけれども,呼吸機能の低下による呼吸困難が認められ,運動負荷試験の結果から明らかに呼吸機能に障害があると認められるもの→11級

むち打ちや脱臼、脊髄損傷など、幅広い疑問にもお応えします。ご相談は埼玉の弁護士、むさしの森法律事務所にご連絡ください。

0120-56-0075 受付時間:月~金(土日祝日も対応)午前9時30分~午後10時

フォームからのご相談予約はこちら

ページの先頭へ戻る