Q.骨粗鬆症(こつそしょうしょう)であったとして交通事故による骨折の場合に賠償額が減らされることはありますか。

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A.

骨粗鬆症であったとして賠償額が減らされる,つまり素因減額がされることは,
既に骨粗鬆症の症状が出現をしていて治療をしており衝撃が軽微にもかかわらず骨折をしたというような場合を除いてはないと考えます。

1 骨粗鬆症とは(クリックすると回答)

骨量が減少し,骨の微細構造が劣化したために,骨が脆くなり骨折しやすくなった病態というのが,医学的な定義です。
病態というのは,骨折等の病状としては発症していない状態であり「予備軍」と言う意味合いです。
骨粗鬆症の成因は加齢もありますが,栄養・運動・環境等の多因子であるとされています。
骨粗鬆症となると,骨の脆弱性となって,骨折を容易に起こしやすくなります。いわゆる脆弱性骨折です。

2 骨粗鬆症の診断基準とは(クリックすると回答)

脆弱性骨折あり→骨粗鬆症です。
脆弱性骨折なし→この場合には,骨密度等で診断されます。

つまり,骨密度がYAM(young adult mean 若年成人平均値:この場合には,20~44歳を若年成人とします。)の70%未満であるか,X線像で骨粗鬆化があれば骨粗鬆症と診断されます。


「骨粗鬆症学会」HPでは,次のように述べられています。

わが国においては,人口の急速な高齢化に伴い骨粗鬆症の患者が年々増加しつつあり,その数は現時点(注:2011年10月時点)でのでは1300 万人と推測されている。
骨粗鬆症では椎体,前腕骨,大腿骨近位部などの骨折が生じやすく,その対策が医療のみならず社会的にも重要な課題となっている。

すると,病態である骨粗鬆症としては,骨密度の測定がなされていない場合も数多くあることを考えると,1300万人をはるかに上回る数の人がいる可能性があり,一定上の年齢層(特に高齢者)においては決して珍しい病態とは言えません。

3 素因減額とは何でしょうか。(クリックすると回答)


損害額が公平の観点から,過失相殺を類推して減額されることを言います。
被害者の身体的要素が損害発生あるいは拡大に関与した場合に問題となります。
その場合に身体的特徴であるか疾患であるかが鍵となります。
疾患であれば素因減額され,身体的特徴の場合には,特段の事情がない限りは減額されません。

そこで,骨粗鬆症の程度がどの程度であれば「特段の事情」に当たるかどうかが問題となります。

4 骨粗鬆症は素因減額となるのでしょうか(クリックすると回答)

骨粗鬆症は骨折となりやすい病態であると言えます。
他方では,既に申し上げたとおり,一定の年齢層,特に高齢者では,特殊ではない経年性のありふれた病態と言え,骨粗鬆症であるだけで素因減額とすることは行き過ぎと言えます。
その点からのバランスをとる必要があります。
なお,東京地方裁判所民事27部(交通専門部)においては,近年,骨粗鬆症を素因減額事由とした事例は見当たらないとされています(いわゆる赤い本2014年版p47)。
また,骨粗鬆症を素因減額事由とするかどうかについては,一応の目安としては,
①事故の態様や衝撃の程度(衝撃が小さいほど減額の可能性とその程度は高くなります。)
②事故前の被害者の状況(事故前から発症していれば減額の可能性があります。)
③被害者の年齢(被害者が若年であれば減額の可能性はほとんどないと言えます。)
(いわゆる赤い本2014年版p47)。

5 結論としてはどうでしょうか。(クリックすると回答)

ある程度の衝撃がある場合において,骨折したならば,たまたま骨密度等で事故後に骨粗鬆症の病態が発見されたとしても,
それを理由として素因減額をすることは,判決例の最近の傾向から見れば妥当ではないことになります。
なお,脊柱管狭窄の場合については,次の記事をご覧下さい。
脊柱管狭窄により素因減額がされるのは,どのような場合ですか。また,どれだけ減額されますか。---後遺障害賠償は,むさしの森法律事務所

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