飲酒運転事故について,運転者と共に飲酒した場合は同乗していなくとも共同責任を負うとした判決です。

[共同,危険運転,飲酒運転]

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飲酒して居眠りをしながら普通貨物車運転をしたYは,歩行中のAに衝突し,Aが死亡した事案です。
運転者であるYは,取引先D,会社の同僚Z他2名総勢5名で忘年会として飲み会をした後の事故でした。
この判決では,Yと一緒に飲酒したZに,「長時間にわたって飲酒を共にしていたZの行為は,Yに対して飲酒をすすめたことと同視することができ」,かつYの飲酒運転を制止する義務を怠り,飲酒運転を幇助したものとして,ZにAに対する共同不法行為責任を認めました。

東京地裁 平成18年7月28日判決(確定)
事件番号 平成17年(ワ)第95号 損害賠償請求事件
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1652号
(平成18年8月31日掲載)

1 事実関係は (クリックすると回答)

(1)(本件事故前の飲酒状況等)
Yは,同僚であるZ及び会社の取引先の社長であるDらと共に,平成13年12月28日午後7時30分ころから午後10時30分ころまでの間,埼玉県川越市内にある居酒屋「T」で,その後,同日午後11時ころから翌29日午前0時ころまでの間,Q駅付近の居酒屋「S」において,更に同日午前2時前ころまでの間,キャバクラ「R」において飲食した。Yは,「T」でビール大瓶4本程度,「S」でビール大瓶2本程度,「R」で焼酎ボトル1本程度を,飲んだ。

(2)(本件事故)
Yは,上記「R」を出たころには,飲酒の影響により,前方注視及び運転操作が困難な状態であったのであるから,運転を回避すべきであったにもかかわらず,本件車両を運転して帰宅途中の平成13年12月29日午前2時5分ころ,埼玉県坂戸市<地番略>先道路上において,本件車両を時速約60㌔㍍で走行させながら,仮眠状態に陥ったため,本件車両の前部をAら3名に衝突させた。Aは,脳挫傷等の傷害を負い,同日午前4時9分,死亡した。

(3)(刑事処分)
Yは,平成14年6月18日,本件事故を起こしたことなどを理由として,危険運転致死傷,救護,報告義務違反の罪により,懲役7年の刑を言い渡された(証拠略)。

2 一緒に飲んだZの責任は (クリックすると回答)

(判決)
Zは,早く家に帰って休みたかったばかりに,Dを介して代行運転を頼むことを促すにとどまり,自らタクシーや代行運転を呼ぶことなく,Yを駐車場に残したまま,一緒に飲酒したWの運転する車両に同乗して帰宅したのであるから,ZにはYの飲酒運転を幇助したものとして,民法719条2項の責任を認めるのが相当である。
なお,Zは,Yが年長であったことなどから注意できる立場になかったなどと主張するが,Dらと一緒にいたことなどに照らすと,Yの運転を制止することができなかったとは到底認められない。

(解説)
そのまま,飲酒運転を予測しながら帰宅したことが,飲酒運転を幇助したものとして,民法719条2項の責任を負うとされたのです。

3 何故,Zが責任を負うのか(事実面から) (クリックすると回答)

(判決)
道路交通法65条は,1項において,酒気を帯びて車両等を運転することを禁じるだけでなく,2項において,「前項に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し,酒類を提供し,又は飲酒をすすめてはならない。」と規定している。
同条の規定を踏まえると,飲酒した後に車両等を運転するおそれのある者に対して飲酒をすすめた者は,その者が飲酒後に運転することを制止すべき義務を負うと解するのが相当である。そして,本件において,前記のとおり,Yと長時間にわたって飲酒を共にしていたZの行為は,Yに対して飲酒をすすめたことと同視することができる。

(解説)
共同不法行為の責任を負う要件としては,道路交通法65条2項「車両等を運転することとなるおそれがある者に対し,酒類を提供し,又は飲酒をすすめてはならない。」と同視できるものと考えられます。
すなわち,それは「飲酒した後に車両等を運転するおそれのある者に対して飲酒をすすめた者は,飲酒後に運転することを制止すべき義務を負う」主体になることから,そのまま飲酒を継続すると判決は示しています。
そのために,「長時間にわたって飲酒を共にしていた」=飲酒をすすめた としているのです。
判決は,Zは,「T」からYと共に飲酒しており,それまでもYと何度か酒を飲んだことがあり,Yは酒を飲むと顔が赤くなることを認識していた,と認定しています。
実際には,Zは,本件事故前からYの飲酒状況をよく知っていたこと,その上で,大量の飲酒を助長させたと判断したのだと考えます。

4 判決文の該当箇所(一部文言を編集) (クリックすると回答)

A相続人らは,Zは,Yを飲酒に誘い,Yと長時間にわたり飲酒を共にし,Yの車の運転による事故発生の危険性を認識していたなどとして,Yに運転をさせない義務があったにもかかわらず,これを怠り,Yの加害行為を教唆,帯助したと主張している。
これに対し,Zは,Yを飲酒に誘った事実はなく,本件事故当日,Dにより,Yに注意をしてもらったので,教唆行為も幇助行為もなく,責任を負うものではないなどと反論している。
確かに,前記認定事実のように,Zが直接Yを飲酒に誘った事実は認められず,また,Zは,駐車場において,Dに,Yについて,「大丈夫ですかね。」と尋ね,Dが「代行呼んだ方がいいぞ。」などと言ったところ,YがDに対し「分かってますよ。」などと答えたことから,Yを駐車場に残して帰宅した事実が認められる。
しかしながら,前記認定事実のとおり,Yは,Wとの電話がきっかけで午後7時30分ころからZらと「T」で一緒に飲酒することになり,その後も,本件車両等に分乗してQ駅前に向かい,翌日の午前2時ころまで「S」や「R」で飲酒を続けていたのであって,その飲酒量は前記前提となる事実のとおりであり,飲酒後,駐車場に向かうYの足下はふらつき,Yは,駐車場を出て本件車両を運転中に仮睡状態に陥り,逮捕された際にも呼気1㍑につき約0.55㍉㌘のアルコールが検出されたほどであったのである。上記によると,Yが「R」を出て駐車場に戻ったころ,正常な運転ができない程度の酪酊状態にあったものと認められる。
前記のとおり,Zは,「T」からYと共に飲酒しており,それまでもYと何度か酒を飲んだことがあり,Yは酒を飲むと顔が赤くなることを認識していたところ(証拠略),「R」を出て,本件車両を止めてあった駐車場に向かった際には,「私の前を歩いていたYの顔はいつもより赤かったのです。私はYがかなり酔ってしまった,これで車を運転しては危ない」と思ったことから,Dに「大丈夫ですかね。」と尋ね,これに対しYが「大丈夫ですよ。」などと答えたが,口調がはっきりしない感じで,ゆっくり答えていたと認識したというのである。
これによると,Zは,駐車場において,Yが飲酒の影響により正常な運転ができない状態にあったことを認識できたものと認められる。また,Zは,前記のとおり,Yが本件車両を運転して「T」に来店し,その後も飲酒を続けるために本件車両を運転してQ駅前まで移動しており,駐車場においても,Dの「代行呼んだ方がいいぞ。」との忠告に対し,「大丈夫ですよ。」などと答えているのを聞いていることからすると,飲酒を共にしていたYが駐車場から本件車両を運転して帰宅することを予見できたものと推認することができ,これを覆すに足りる証拠はない。
ところで,道路交通法65条は,1項において,酒気を帯びて車両等を運転することを禁じるだけでなく,2項において,「前項に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し,酒類を提供し,又は飲酒をすすめてはならない。」と規定している。
同条の規定を踏まえると,飲酒した後に車両等を運転するおそれのある者に対して飲酒をすすめた者は,その者が飲酒後に運転することを制止すべき義務を負うと解するのが相当である。そして,本件において,前記のとおり,Yと長時間にわたって飲酒を共にしていたZの行為は,Yに対して飲酒をすすめたことと同視することができる。
また,前記前提となる事実のとおり,Yは危険運転致死傷罪等により懲役7年の刑に処せられたのであるが,危険運転致死傷罪は,「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ」た者を処罰する規定であって(刑法208条の2),飲酒運転等の悪質かつ危険な自動車の運転行為による重大事犯を,従来の過失犯の枠組みを超えて,適切に処罰するために,平成13年12月25日から施行されたものであることにかんがみると,飲酒の影響により正常な運転が困難な状態で運転した者を厳罰に処するのは当然のこととして,車両を運転して帰宅するであろう者を正常な運転が困難となるような状態に陥るまで飲酒をすすめた者に対し,運転を制止すべき注意義務を課し,これを怠った場合に民事上の責任を負わせることには,相当性があるというべきである。
以上に検討したところによると,Zは,前記のとおり,Yと長時間にわたって飲酒を共にし,その結果,Yが正常な運転ができない程度の酩酊状態にありながら,本件車両を運転して帰宅することを認識できたのであるから,ZにはYの運転を制止すべき注意義務があったというべきである。
ところが,Zは,早く家に帰って休みたかったばかりに,Dを介して代行運転を頼むことを促すにとどまり,自らタクシーや代行運転を呼ぶことなく,Yを駐車場に残したまま,一緒に飲酒したWの運転する車両に同乗して帰宅したのであるから,ZにはYの飲酒運転を幇助したものとして,民法719条2項の責任を認めるのが相当である。
なお,Zは,Yが年長であったことなどから注意できる立場になかったなどと主張するが,Dらと一緒にいたことなどに照らすと,Yの運転を制止することができなかったとは到底認められない。
また,Zは,A相続人らの請求は懲罰目的の請求であり,被害者救済を目的とする民法719条の予定するところではないと主張するが,A相続人らの請求が専ら懲罰目的であって,不当な請求であるとまでいうことはできない。

5 コメント (クリックすると回答)

極めて悪質な事例だったと思います。また,被害者も19歳という若く悲惨でした。
被害者側としては,一般的にも運転者のみならず,共に飲酒をした関係者も被告とする余地があると言えます。

また,飲酒の機会が多く,その中で飲酒運転をするおそれがある人間がいる場合には,いつか会社側となり賠償責任を負うのか分かりません。
その点は,十分に注意が必要です。

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