椎間板ヘルニアは膨隆が事故の衝撃で発症したとし後遺障害(後遺症)6級を認めた判決です。

[ヘルニア,可動域,変形障害,椎間板,素因減額,脊柱,脊椎固定術,膨隆,7級]

事故によって椎間板の膨隆からヘルニア症状を出現させて固定術をした場合の後遺障害に関する判決です。
神経系統の機能障害(7級)と脊柱の変形(11級)による併合6級を認めました。

神戸地裁 平成20年3月25日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1764号(平成20年12月25日掲載)

【事案の概要】   (クリックすると回答)


被害者(当時,52歳有職主婦)は,平成14年11月18日乗用車助手席同乗中に追突されて,椎間板ヘルニアとなり,固定術を受けました。
しかし,事故前無症状でしたが膨隆が既に存在していたものです。

被害者車両は,取替えを要するリアバンパー,リアバンパー下スポイラー及びリアゲートの各脱着,取付けを要するリアウインドー,リアワイパー,ナンバープレートロック張付けマークの各脱着,塗装を要するなどの損傷があったもので衝突の衝撃が軽微であったとは,言えないもでした。

この椎間板ヘルニアとなり,固定術を受けた後遺障害と事故との因果関係が争点となりました。

【判決の趣旨】  (クリックすると回答)


(1)事故とヘルニアとの因果関係
何よりも,椎間板ヘルニアを実際に前方固定術を実施し,C5/6の椎間板の状況をみた○○医師は,椎間板の突出はなかったとの所見を述べていることからすると,被害者について,C5/6において椎間板ヘルニアがあったと断定することはできない。

しかし,実際にC5/6の椎間板を見分している○○医師は,膨隆した椎間板が後靱帯ごと脊髄を圧迫したものであると判断しており,いずれの医師の判断もMRI検査の結果も,程度は別にして,脊髄に対する圧迫を認め,被害者において初期の時点で神経症状も生じていたとみられ,前方固定術後に,症状の大幅な改善はみられないにしても,症状の悪化は進行していないことに照らすと,

被害者において膨隆したC5/6の椎間板が脊髄を圧迫して,被害者の症状,後遺障害をもたらしたとみるのが相当である。

(2) 後遺障害
ア 被害者の神経系統の機能又は精神の障害(7級以上)
日常生活では,杖や装具なしには階段の昇降や起立自体もできず,杖なしでは平坦な道も歩行することができない状態であり,重い物を持つこともできず,片手で包丁を使うことも難しいときもあるが,全く包丁を使えないわけではない

直立検査及び重心動揺検査にて開閉眼ともに動揺(特に前後方向)が著しく,4肢につき感覚障害,上肢のSSEPはN13-N20が7.14ms(正常5.9±0.4),右側で著明に遅延しており,脊髄レベルでの感覚障害を裏付けるとみられる


これらからすると,被害者は,神経系統の機能に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないものとして,等級表7級に該当すると認めるのが相当である。

なお,脊髄内の信号に異常がみられないと判断されているが,電気生理学的検査は1つの補助診断にすぎず,明らかな脊髄症があっても電気生理学的検査で異常を指摘できないことはしばしばみられる,これをもって,脊髄の圧迫及びこれによる諸症状の発症,後遺障害の残存を否定することはできない。

イ 脊柱の障害
被害者は,脊柱に著しい運動障害を残すものとして等級表6級に該当すると主張するところ,,前方固定術後の運動可能領域の制限は正常可動範囲の2分の1程度に達していないから,等級表11級の脊柱に変形を残すものに該当するということができる。

後遺障害の内容は以上のとおりであるところ,神経系統の機能の障害が等級表の7級に相当し,脊柱の変形障害が等級表の11級に相当するから,脊柱の変形障害は脊椎固定手術により神経系統の機能が回復しつつも脊柱自体の変形に着目して後遺障害として認定するものであると考えられるところ,被害者の場合には神経系統の機能障害が残存していることを考慮しても,等級表6級に相当する。

【コメント】  (クリックすると回答)


①被害者の症状は事故前から存在した膨隆が事故の衝撃が契機となって脊髄を圧迫する症状を発症し,それにより固定術を受けたと,本件事故との因果関係を認めました。

②被害者に日常生活に装具を使用する7級と脊柱変形の11級とで併合6級を認定しました。

③無症状ながら,被害者には事故前膨隆が既に起こっていたとして,素因減額を「5割である」と認定しました。

本件は,ヘルニアに該当するかについては,厳密に言えば避けております。
「被害者において膨隆したC5/6の椎間板が脊髄を圧迫して」症状をもたらしたという表現にその点が表れています。

なお,被害者の神経系統の機能又は精神の障害を7級と認定したものは,
SSEPによる潜時(latency)の左右差でした。
脊柱の変形障害については脊柱固定術が行われれば該当しますが,それとは別に運動障害があれば,その点でも評価されます。
本件では,可動域制限のレベルから変形にとどまるとしたものです。

(注)潜時について
SSEP(short-latency somato-sensory evoked potential 短潜時体性感覚誘発電位:末梢神経を刺激してから誘発電位のある頂点が出現するまでに要する時間

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